おくすり千一夜 第四話 どんな病気だと終生免疫になるか?
私共の腕には子供の頃受けた種痘の痕が必ずあり、どんなに美しいご婦人も例外ではありません。種痘は終生免疫の代表的なものです。
何かに感染して発病し回復すると、体に免疫が出来、その病気に二度とかからないケースのあることを聴いた覚えがお有りでしょう。
それではどの様な感染症は免疫が一生保たれ、どの様な感染症ですと、すぐ免疫が無くなってしまうのか、あるいは出来ないまま終わってしまうのか、お話しましょう。
*細菌性の感染症では、
a) 通常、終生免疫の得られるものに、ジフテリア、猩紅熱、百日咳があります。
b) 数年~十数年と比較的長期の免疫が得られるものに、腸チフス、パラチフス、 ペスト、それにコレラがあります。
c) 数カ月~数年と短期の免疫しか得られないものに、破傷風、赤痢、流行性髄膜炎があります。
d) 免疫がほとんどできないものに、肺炎菌(肺炎球菌、肺炎桿菌、ブドウ球菌)と化膿菌(淋菌、ブドウ球菌、レンサ球菌)があります。
*ウイルス性の感染症では、
a) 通常、終生免疫がえられるものに麻疹、水痘、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)が、
b)数カ月~数年と免疫が続くものに、ポリオ、インフルエンザ、デング熱があり、
c) 免疫が弱く再感染が稀でないものに、B型ウイルス性肝炎とオウム病が、
d) 免疫が殆ど成立しないものに、ヘルペス、サイトメガロウイルス感染症などがあります。
*細菌より小さいリッケチア感染症は、その多くの疾患で終生免疫になると言われております。
しかし、この様な分類には、不十分な点が多々認められます。ジフテリアや猩紅熱は、昔は一度感染した後でも症状の現れない不顕性の感染がしばしばあって、それで免疫能が増強されていたと考えられます。
また強力な抗生物質を使用する機会が多くなったため、病気の発症から回復までの期間が短くなって、十分な免疫が得られないまま、回復してしまうケースも考えられます。
それから、インフルエンザウイルスや赤痢菌のように変身してしまうと、血清の型が変わり、免疫が働き難くなります。
さらに、同じ菌種やウイルスが、色々な疾患の原因となることがあり、その際、異なったタイプの疾患には免疫が成立しないそうです。
すなわち、腸チフスの後でチフス菌による骨髄炎になっても免疫がなく、麻疹の後でかかった脳炎、正確には亜急性硬化性全脳炎にも免疫が成立していないと言われております。