おくすり千一夜 第五話 変身するインフルエンザ・ウイルス!

人は、ある病気にかかって治ると、抵抗力ができ、二度とその病気にかからなくなります。これを疫病から免れるという意味で体に免疫ができたといいます。

天然痘は一度かかると、再びかかることはありません。それは抗体という病原菌をやっつける武装集団が体の中に組織されたからなのです。

ではなぜ私達は毎年インフルエンザにかかるのでしょう。一度かかれば二度とかからないというわけにはゆかないのでしょうか。

インフルエンザはウイルスという、細菌より小さい生命体です。

ウイルスは、ほとんど遺伝子だけからできていて、それが皮をかぶった小さなお化けで、人や動物の細胞の中に潜り込んで増殖する細胞の寄生虫なのです。少し学問的に言うと、ウイルスは遺伝情報をRNAの形で持ち、RNAはタンパクの膜で覆われていて、これが人の粘膜に接触すると、RNAを粘膜細胞の中に押し込んでしまいます。 RNAは細胞の中で自分を沢山複製し、おまけにウイルスの膜になるタンパクまで寄生細胞に作らせ、最後はお世話になった細胞を食い破って脱出し、感染を広げて行く、エイリアンかインベーダーです。

これが粘膜細胞中で起こるので喉や鼻が腫れます。体の方も負けてはいません。直ちに免疫細胞が抗体を作って、ウイルスと戦闘を開始し撃退してしまうのです。

その様子は高熱という形で現れ、やがて治癒されます。これがインフルエンザにかかった時の症状です。

ではなぜ毎年のようにインフルエンザが流行するのでしょう

インフルエンザ・ウイルスは、人間に感染しコピーされている間でも変異を起こしますが、人間から脱出した後では、もっと恐ろしいウイルスに変身することがわかってきました。実は、家畜にもそれぞれ特有のインフルエンザ・ウイルスがいて、感染を繰り返していますが、家畜は発病するわけではなく、ウイルスと平和的に暮らしているのです。

ところが、人間のウイルスが、家畜に感染すると、大変なことが起こります。人間のウイルスと家畜のウイルスとが遺伝子の一部を交換し、いわゆる遺伝子組み替えを起こします。こうすると短時間で大きな突然変異がRNAに生じ、新型のウイルスに変身してしまうのです。

これまでにかかったインフルエンザ・ウイルスで私どもには免疫ができていますが、その免疫力は新型ウイルスには無力で役立たないために、インフルエンザが大流行する結果になったのです。

今までに世界各地でインフルエンザが大流行し、多くの人が犠牲になったのは、このようなインフルエンザの特殊な変身によるものです。

最近では「香港かぜ」が有名です。香港では鶏が新型ウイルスの発生源であることがわかり、大量の鶏を焼却処分して、感染を防ぐことができました。

ここでウイルスと細菌の違いを比較して見ましょう

細菌はそれぞれが一個の細胞で、外側に丈夫な細胞壁とその内側に薄い膜があり、栄養さえ与えてやれば、自分で増殖できるやや高等な生物です。

ですから細菌に効く抗生物質には、細胞壁を作ることを邪魔する薬があり、細菌が分裂しても部屋の間仕切ができないため、寄り合い所帯の多核細胞となり、大きくなりすぎて細胞膜が破れ、中味が流れだして死滅してしまうのです。一方、インフルエンザには、今のところワクチンの接種のみが比較的有効と言われております。

現在のインフルエンザ治療薬

我が国では、パーキンソン症候群治療薬のシンメトレル(アマンタジン塩酸塩)が1998年11月にA型インフルエンザ治療薬としても承認を得たのを皮切りに、2000年にリレンザ(吸入)、2001年にタミフル(経口)、2010年には単回使用のイナビル(吸入)とラピアクタ(点滴)、2018年にゾフルーザ(経口)、と次々にインフルエンザ治療薬が発売されています。(小鬼)

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