おくすり千一夜 第六話 緑茶を飲めば癌にならない!
いま我が国では、さまざまな健康食品が販売されています。中でも、これを飲み続けるとガンにならないとして、いろいろなキノコエキスが売られております。
キノコには共通してムコ多糖類が含まれており、これは非特異的に免疫能を高める効果のあることから、ガンにも効くと考えられ、一部は「クレスチン」のような医薬品として使用されたこともありました。ただキノコであれば、ムコ多糖類であれば、どれも同じで、特定のキノコを、高いお金をだして飲む必要はありません。日頃よく食べる乾燥椎茸などは、まさに理想的なガン予防の健康食品と言えましょう。
私どもが日常使用している嗜好品のなかで、ガン予防効果が確かであることが、証明された物質があります。それは日本人が最も愛用してきた「緑 茶」です。
1991年アメリカ、ニューヨークで、緑茶による動脈硬化と癌の予防に関する国際シンポジウムが開催され、この中で、アメリカ健康財団の研究者から素晴らしい報告がなされました。
日本もアメリカも喫煙者が多いのに、日本の方が肺ガンの発生率が低いのは、何故か?緑茶を飲んでいるからではないか?という発想から、この研究はスタートしました。
まず実験用の動物に肺ガンを発生させる物質を飲ませ、この動物群に、紅茶と緑茶をそれぞれ与えたところ、緑茶を与えることで癌の発生が大きく抑えられたというのです。
アメリカの、あるガンセンターの所長さんは、ガン予防の大切さを力説しております。考え方はこうです。ヒトのガンは幾つもの段階を経て生ずるものであり、一度ガン化が起こるとその周辺の組織の中にも、別にガンになる芽、ガンの卵のようなものが、すでにできているというのです。すなわち正常な細胞が、分裂を繰り返しているうちに、何かの弾みで、ある確率で、一個のガン細胞となるそうです。ガン細胞が、目で見て分かるようなガン腫瘍、かたまりになるには、普通20年もの長い年月を要すると言われています。
ガンの予防とはこの長い過程において終点のガン腫瘍にまで至らないようにすることだそうです。他の病気と違って私どもの多くはすでにガンの芽を持っているのですから、ガン化の速度を遅くして、天寿をまっとうするまで、ガンの症状を呈しないようにするのが、ガンの予防なのです。吉田肉腫で有名な吉田富三先生はこう述べておられます。「ガンを治すのではなくて、ガンと共存することが、ガン予防なのだ」と。
十年ほど前、この考え方に沿って埼玉県のある町で、40才以上の8,500人の住民について調査がおこなわれ、緑茶を一日に10杯以上飲む人は一日3杯以下の人に比べ、女性で7歳、男性で5歳永く生きられることがわかりました。
さらに10年かかって419名のガン患者について、同様の調査をおこない、ガンと診断された人たちの、年令と緑茶を飲む量について調べたところ、10杯以上の人は3杯以下の人に比べ、寿命が、女性で7.3歳、男性で3.2歳も高齢であることがわかりました。この結果は世界の研究者を驚かせ、目下アメリカでは緑茶による第一相の臨床試験が始まっております。世界のお茶の消費量は紅茶が80%、緑茶が20%なので、臨床試験で効果が証明されれば、お茶の消費動向が大きく変わることでしょう。
追補 : 緑茶と癌その後。 (2002年2月)
筆者が上述の内容を記載したのは五年前です。その後の変遷を追補のかたちで紹介しましょう。
緑茶の癌予防の効果のメカニズムは、含まれるポリフェノールに、活性酸素を消去し、細胞や遺伝子が傷つくのを抑える働きに因ると考えられております。しかし癌発生のメカニズムはそんなに簡単ではなく、多数の要因が考えられ、その後の報告には緑茶の効果に否定的な内容が目立つようになりました。昨2001年3月、アメリカの医学誌「New England Journal of Medicine」に日本での疫学調査が報告され、宮城県に住む四十歳以上の二万六千人を対象とした九年間に及ぶ追跡調査の結果、緑茶を多く飲んでも胃がんの発生率は下がらないことが明らかになりました。同じく三万九千人を十四年間観察した日本での研究もあり、緑茶を一日五杯以上飲んでも、癌の発生率は下がらないと言うものでした。最終的な結論をだすには、もう少し時間が必要です。当面は緑茶はあくまで楽しみとして飲むのが良いようです。
緑茶と癌その後。の後。
厚生労働省のeJIMによれば、2020年10月の時点で【人における緑茶とがんの研究からは、一貫した結果は示されませんでした。米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)は、いずれの種類のがんリスクを軽減するためにも、緑茶の使用を推奨する立場も反対する立場もとっていません。】とされています。厚生労働省eJIM | 緑茶 | (小鬼)