おくすり千一夜 第七話 漢方の証アレルギー体質免疫

漢方では人の健康状態や体質・抵抗力を陰陽・虚実の二次元平面内に位置付けて表わします。健康な人は、陰でも、陽でも、虚でも、実でもない状態で、二次元平面の原点近くにいると考えられております。病気になりやすい人は、陰虚の証で、虚弱体質とかアレルギー体質と呼ばれます。漢方では体質は変えられるものという考え方で治療が行われております。

最近、アレルギー疾患が非常にふえました。一番多いのがアトピー性皮膚炎、次が難治性喘息で、スギ花粉症のような鼻アレルギー化学物質アレルギーが続きます。アレルギーは免疫の一応答形態です。そもそも免疫とは我々の体を病気から守る生体の防御システムで非常に重要です。例えばエイズに感染すれば防御システムが完全に破壊され、普通感染しないか、しても発症しないような細菌で重篤な病気になります。

科学が進歩し、免疫のメカニズムが、分子や遺伝子レベルで解析され、色々なことがわかってきました。

我々の体の中には、免疫を担当する軍隊か警察のような細胞があります。それはヘルパーTという細胞で、1種類のみと考えられて来ましたが、最近異なった機能をもつT-1とT-2の二種類の細胞があり、ちょうど天秤のようにバランスを保って、体の中の免疫現象を司っていることがわかりました。 T-1細胞は我々の体を、細菌や癌などから守るために重要な働きをします。

一方、T-2はアレルギー発症の際に悪戯をするIgEという抗体をたくさんつくる働きがあります。両者が均衡を保っている間は問題ありませんが、バランスが 崩れると病的な状態に陥ります。T-2が多くなるとアレルギー体質になり、T-1が弱くなって感染しやすくなると考えられます。反対にT-1が強くなりすぎると感染に対しては抵抗性は増しますが、自分の組織まで破壊する自己免疫疾患に陥ります。肝障害、糖尿病、潰瘍性大腸炎それに関節リュウマチがそれです。

したがって、 T-1とT-2のバランスは免疫制御の大切な仕組みであり、これがどうやら遺伝的な支配を受けていることかわかってきました。

免疫バランスの偏りについては、アトピー患者では、血液中にIgEが過剰で、細胞性免疫の弱いことがわかりました。言い換えればアトピーの患者さんは、T-2過剰にかたむいており、T-1依存の細胞性免疫が落ち込んで、 T-2によるIgEを作る免疫能が上昇しているのです。

近年、アレルギーが多くなったのは寄生虫感染が少なくなったことが原因という説があります。寄生虫に対するIgEがマスト細胞の受容体(鍵穴)をふさぎ、スギ花粉を吸ってもヒスタミンがでず、アレルギー症状が起きないからです。
 

日本は環境が衛生的になりすぎたことが、アレルギー多発の原因と考えられます。後進国ではアトピーやアレルギーはありません。人はいろいろな感染と、発熱を繰り返すことで、T-1とT-2のバランスのとれた免疫体質が作られてゆくようです。

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