おくすり千一夜 第九話 非ステロイド抗炎症鎮痛剤とは

ステロイドという言葉は、本来ホルモン骨格の名称で、この骨格をもつ副腎皮質ホルモンが数多く合成され、効果も体の中にあるものを1とすれば、数倍から数百倍も強力なステロイド剤が創られ、「奇跡の薬、ミラクルドラッグ」として優れた抗炎症作用を発揮し、広く使われて参りました。

ステロイドは効果と共に色々な副作用もあることがわかり、今話題のアトピー性皮膚炎などは、ステロイドの多用が原因の一つと考えられております。1

ステロイドと異なる骨格を持ち抗炎症作用と鎮痛作用とを合わせ持つものが「非ステロイド抗炎症鎮痛剤」で、略してエヌセイド(NSAIDs)といいます。

すべてのエヌセイドは、体の中のシクロオキシゲナーゼという酵素の活性を抑え、この酵素によって創られるプロスタグランジンという生理活性物質の生成を低下させます。

プロスタグランジンには、実にさまざまな作用があり、疼痛・浮腫・血管拡張などの炎症状態と深い関わりを持っております。 エヌセイドはまた白血球の遊走を阻止し、活性酸素の生成を抑えますが、これらの作用が臨床上どのような意義を持っているのか分かっておりません。 単回あるいは少量投与されたエヌセイドは鎮痛剤として作用し、継続ないし大量投与されたエヌセイドには炎症を抑える働きがあります。作用の比較的緩和なエヌセイドに、イブプロフェンとメフェナム酸があります。

プロスタグランジンには本来、生理的に胃粘膜と腎循環を保護する働きがあります。従ってエヌセイドの副作用である消化器と腎の障害は、プロスタグランジンの合成阻害に基づく本質的な作用なのです。最近シクロオキシゲナーゼにはCOX1とCOX2という2種の異性体のあることわかり、一方は炎症反応に、もう一方は粘膜組織保護作用をもつプロスタグランジンの合成に、関与していることが分かってきました。

エヌセイドの消化管毒性は胃と十二指腸の粘膜の糜爛・出血・穿孔で、なんら予告無しに起こることもしばしばです。このリスクは、用量が多いほど、60才を過ぎて年令が高まるほど、さらに既往症があると、一層高くなります。副作用を回避しようとして色々な試みがなされきました。

腸溶性コーティング錠にしたり、座剤にしたり、或いはスリンダックのようなプロドラッグも開発されました。しかし、どんな剤型にしても肝臓で活性誘導体に変換されてしまうので、胃腸出血を起こすことがわかりました。胃腸障害が少なく、しかも抗炎症作用は失わない薬剤の開発が報告されていますが、慎重な検討が必要でしょう。エヌセイドは一般に可逆性の腎機能障害を引き起こします。さらに心不全、肝硬変、腎不全の患者では急性の腎不全や急性間質性腎不全をおこすことが知られております。その他の副作用に、皮疹、喘息、肝障害がありますが、プロスタグランジンとの係わりは不明で個々のエヌセイドに固有のものと考えられます。

作用持続時間はエヌセイドによって異なり、半減期の短いものにイブプロフェンやジクロフェナック、中間のものにインドメタシン、長いものにピロキシカムがあります。老年者には半減期の短いものほど、安全なので、これの徐放製剤が望ましいと言えます。関節リュウマチ等でエヌセイド治療を継続しなければならない患者では、プロトンポンプ阻害剤であるオメプラゾールが目下のところ最も効果的と考えられております。

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  1. 現在はそのような説はありません・小鬼 []