おくすり千一夜 第十話 風邪薬の正しい使い方
「人混みでちょっと寒いおもいをしたら、風邪をひいてしまった。喉と鼻の奥が痛い。熱が38度を越した、咳もでてきた。早速、医師に診てもらい、解熱剤の注射と、顆粒の総合感冒薬と抗生物質らしい錠剤、痰の切れが良くなる小さな錠剤、それに座剤まで頂いた。これで万全!。たちどころに風邪が治るはずだった。ところが、薬はきちんと飲み、熱も下がったのに、今年の風邪はたちが悪くて、なかなか抜けない。」
こんな経験をお持ちではありませんか。この場合、本当に今年の風邪は性悪だったのでしょうか。或いは薬が効かなかったのでしょうか。それとも体質なんでしょうか。
風邪をひくと何故熱が出るのか、その訳をお話しましょう。発熱や喉や鼻の炎症は、感染を防ぐための生体が持っている防衛反応なのです。発熱で細菌やウイルスのような病原体は弱って死滅します。喉や鼻が腫れることは、感染病巣に防御柵を築き、病原体を喉や鼻の局所に封じ込め、体の内部にまで侵入するのを阻止しているのです。局所の封じ込めに成功し、全身への侵入が阻止できると自然に平熱に戻るので、熱の変動は、生体と病原体との闘いの様子を示す大事な目印なのです。
ただ発熱や喉や鼻の痛みは、睡眠を妨げ、食欲がなくなるので、体力が消耗して治りにくくなることがあります。これを回避するには緩和な解熱鎮痛剤が適当です。強力な解熱鎮痛剤を一日三回、症状の有無に関係なく服用し続けると、正常な感染防御機構が抑えられ、治癒を遅らせる結果になります。これが「今年の風邪は性悪で、なかなか抜けない」状態です。解熱剤を飲んで熱はさがったが、体を無防備都市にしてしまったわけです。健康な人はそれでも問題ありませんが、小児や老人で抵抗力が比較的弱いと副作用で死亡したり、死に至らないまでも極めて重篤になるケースがあります。人は発熱だけで死ぬことはありません。しかし解熱剤で死亡することがあるのです。
欧米で認められていない強力な解熱鎮痛剤を、いま日本では大人はもちろん、小児に使うことが1998年まで許されておりました。これが相変わらず後を絶たないライ症候群と関連があるのではと言われております。ですから解熱鎮痛剤の使用は、とくに頭痛がひどく、眠れない時だけ「屯用で、一日二回まで」を原則とすべきです。
一方、細菌感染でも風邪に似た症状となり、喉や気管支に炎症が起こります。これは抗生物質で叩けるので、解熱剤を使用して防御反応が抑えられても、治療への影響は少ないでしょう。インフルエンザのようなウイルス性の風邪では話が違ってきます。自然治癒力だけが頼り1ですので、これが解熱剤で抑えられると、種々の合併症を生ずる危険性があります。解熱剤で平熱になると病気が治ったと思われるほど楽になりますが、実は病気の治癒はかえって遅くなるのです。
以上の内容をよく理解された上で、「やはり薬を使いたい」ならば、どんな薬が良いかお話しましょう。本当は暖かいスープか、卵酒でも飲んで一汗かくことが一番です。欧米で小児のウイルス性疾患にも使用が認められている唯一の解熱剤に、「アセトアミノフェン」というお薬があります。これを頓服で服用されることをお薦めいたします。
- 2022年現在、インフルエンザ治療薬は数種類販売されています[↩]