おくすり千一夜 第十二話 お酒で薬を飲んだらどうなる!

人は風邪をひいたら卵酒でも飲んで寝るのが一番だと思います。お薬とお酒の飲み合せについてお話しましょう。その前にアルコールが、からだの中でどのように変わるのか説明しましょう。

飲んだアルコールは殆どが肝臓で酸化されて、まず「アセトアルデヒド」になり、さらに酸化されて炭酸ガスと水になり、一部は再合成されてコレステロールや脂肪になります。お薬の中にはこのアルコールの代謝を邪魔するものがあります。

一般にアルデヒド類は生体にとって毒なので、体は早くこれを除去しようとして、色々な反応が起ります。メチルアルコールを飲むと目がつぶれるのは酸化でホルマリンという恐ろしい蛋白変性物質ができるからです。

アルコールの代謝:お薬の中にはアセトアルデヒドがさらに酸化されるのを邪魔するものがあり、併用するといろいろな反応を引き起こします。最も強力なのが嫌酒薬として有名な「アンタビュース」です。この薬をお酒と一緒に飲むと、数分で顔が赤くなり、ずきずきと頭が痛み、血圧が下がり、動悸、頻脈、吐き気、嘔吐などの症状が数時間続きます。

アンタビュースほどではありませんが、抗トリコモナス剤のメトロニダゾール、抗生物質の中でNーメチルテトラゾールチオメチル基を持つセファロスポリン製剤、血糖降下剤クロルプロパマイド、狭心症のお薬ベラパミールなどは服用すると同じ様な症状がでるので注意が必要です。

薬物代謝の変化:お酒は薬の代謝に影響を与える場合があります。それはお酒の量と飲み方で変わります。一時に大量に飲むと、代謝が阻害されて薬の効き過ぎが起こり、毎日大量に飲むと、代謝酵素が誘導されて薬の効きが悪くなります。とりわけ、抗てんかん薬フェニトイン、抗凝固薬ワルファリン、血糖降下薬トルブタマイドはアルコールの影響が大です。

大量のお酒をいつも飲んでいるとワルファリンが効かなくなり、この薬でよくコントロールされている人が一度に大酒を飲むと、逆に抗凝固作用が強くなって出血し易くなります。大酒でトルブタマイドの排泄が倍も早くなり、効かなくなります。連続大量飲酒は解熱鎮痛薬アセトアミノフェンを肝臓毒に変えてしまい、肝障害を起こします。最近、話題の保険金殺人事件の手口はこれを利用した犯罪です。

酒と薬の相互作用:アルコールは睡眠薬、抗不安薬、麻薬、抗精神薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬などの作用を強めます。酒を飲むなら薬を減らすか、作用の弱いものに代えるべきです。高血圧で血圧降下薬を服用している場合、薬の飲みはじめに酒を飲むと起立性低血圧で、めまいや失神することがあります。

反対に大量飲酒で血圧が上昇し、卒中になりやすくなります。抗てんかん薬の服用者でも、一日一合までは安全ですが、毎日の大酒や、無茶飲みは控えるべきです。また糖尿病患者の大量飲酒は重篤な低血糖を引き起こします。万一低血糖になったらブドウ糖の静注が必要です。

一般に糖尿病は完全な禁酒の必要はありませんが、男性は一日、日本酒一合五勺か、ウイスキーならシングル三杯まで、女性は一合かダブル一杯を越えないように注意が必要です。

低血糖の発作を予防するために、お酒と一緒にサンドイッチやクラッカーなどの炭水化物をとるようにしましょう。高血圧、糖尿病、高脂血症などの成人病で薬を常用している場合でも、適量の飲酒はほとんどの場合、問題ないのです。

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卵酒

名前は知っていても、小鬼は飲んだことも見たこともない卵酒でしたが、広辞苑にもちゃんと載っていて「酒に鶏卵と砂糖を加え、かきまぜて煮立てた飲料。風邪のとき発汗剤とする」とあります。鬼さんは学生時代に寮で(風邪をひくと)愛飲していたそうです。