おくすり千一夜 第十三話 子供と老人の薬用量はどうして決まる!
子供と大人が飲む薬の量は同じで良いと思う人はおりません。体が小さければ大人より少量で良いと誰も考えるはずです。答えはその通りで、年令に応じた用量が決められており、その根拠となる計算式が数多く提案されてきました。
それらは年令を基準にしたもの、体重を基準にしたもの、体の表面積を基準にしたものとに大きく分けられます。なかでも年令と体表面積を使って成人に対する用量比を求めた「フォン・ハルナックの表」がもっとも普及しております。 皆さんのお手元にあるお薬の能書の記載と比較してみて下さい。
von Harnackによる小児薬用量
年令 (才) | 三ヶ月 | 半年 | 一年 | 3年 | 7.5年 | 12年 | 成人 |
小児薬用量 | 1/6 | 1/5 | 1/4 | 1/3 | 1/2 | 2/3 | 1 |
子供は成長に伴い薬の吸収・代謝・排泄の機能が変わるので、薬用量を適切に決めることは、かなり困難です。いろいろな計算式が提案されているのは、その難しさのためです。
さて老人と成人とは、お薬の量は同じでよいでしょうか。よいはずはありません。お年寄りには一般に「老化」と呼ばれる生理機能の低下がみられます。若いときはどんなに疲れても、一晩よく休めば疲れが残らず元気になったのに、最近は数日してから疲れが出てくるとか、風邪で高い熱は出なくなったが、なかなか抜けないとか。
あるいは顔に老人斑と呼ばれるメラニンのシミが出てきたとか、髪の毛が白くなったとか、人の名前が覚えられなくなったとか。それらは全て生理機能の低下が原因なのです。
お薬を服用する場合も、それが体の中を動き廻る度合い(薬物動態)や、効き具合(薬力学)に応じて、お薬の量を変えなければなりません。ただ同じ年令でも老化の進み方に大きな個人差がみられるので、平均値で薬用量を決めても殆ど意味がなく、各人の生理機能を調べてこれに合わせる必要があります。具体的な数字でお話しましょう。
30代の青年から80代までの老人について比較した結果、加齢とともに全ての生理機能がほぼ直線的に低下して行くことがわかりました。俊敏さの基になる神経伝導度や、体力の指標となる基礎代謝率、それにみずみずしさを示す体細胞水分量は10乃至20%減と比較的低下が少なく、、まだまだ八割以上の機能を保っております。一方、心・肺の機能の指標となる心係数、肺活量、換気量と、腎臓の働きを表す糸球体ろ過量や腎血漿流量は80代では四割から六割も落ちてしまうそうです。
しかし食物の消化吸収力と、肝臓での代謝能には、低下はあまり見られません。やはり腎臓と肺の機能に、老化に伴う顕著な低下の見られることがわかります。
生理機能の低下したお年寄りが、お薬を飲んだらどうなるのか具体例でお話しましょう。例えば半減期の短い催眠導入剤でも、なかなか代謝されず効果が持続する場合があります。また飲んだお薬によっては腎臓での排泄速度が遅くなって、薬が体内に溜まり、血中濃度が高くなって、有害反応のでる危険性が増します。特に強心剤や抗てんかん薬は常用量と中毒量との開きが少ないので、中毒発現の危険性が大となります。
ですから、お年寄りの服薬は、殆どの場合、少しすくなめから飲みはじめるとよいでしょう。