おくすり千一夜 第十五話 平均寿命が30年以上伸びた!

戦後私たちの寿命は「人生五十年」といわれた戦前までと比較して、三十年以上も伸びました。食糧事情がよくなり、サルファー剤や抗生物質と呼ばれる素晴らしい薬のおかげで,最近の男性の平均寿命は77.16歳、女性は84.01歳と名実ともに日本は世界一の長寿国になりました。

ところで、初めて公表された簡易生命表は明治二十年代のもので、平均寿命は男女それぞれ42.8才および44.3才でした。この百年間、とくに戦後五十年間における平均寿命の伸びは驚異的です。

しかし、本当に長寿なったかというと、かならずしも、そうとは言えません。各年代の人が何歳まで生きられるかを年齢別に推定してみましょう。明治中期(明治24~31年)と現在(平成11年)の平均余命をグラフ化してみました。横軸に現在の年令を縦軸に「実年令+平均寿命」即ち推定寿命を男女別に取ってみました。

すると生まれたばかりの人の推定寿命は、明治中期から現在までに二倍近く伸びていることが判りました。しかし、年令が進むにつれ、実年令とその人の推定寿命との差は小さくなり、80才を越えると、二つの値にほとんど違いがなくなっていることが分りました。

すなはち、戦前と現在の日本人の平均寿命の差は、若年層の若年死によるもので、80才まで生き抜いた人については戦前も現在もほとんど寿命に差がありません。ですから人間本来の寿命は必ずしも伸びたとは言えないのです。

戦後平均寿命が伸びたのは、栄養状態の改善と医学の進歩によって、若いうちに死ぬ確率が小さくなったためです。戦前までの主な死因は乳幼児の消化機能の不良や肺炎、青年の肺結核などでした。現在成人病と呼ばれる、動脈硬化、高血圧、糖尿病、ガンなどが、なお残されており、私たちはなかなか寿命をまっとう出来ません。 これらの病気を克服することが、21世紀の課題といえます。

仮に全ての成人病が克服できたとしても、生理的な老化が進み、死亡するのが自然の摂理です。

我々生物は死ぬべく生まれるといえます。グラフ化した内容から人間の寿命を推定すると、それは実年令と平均寿命とが等しくなる点で、百才から百十才程度になり「白寿」これが日本人の平均寿命と思われます。

健康で頭脳明晰で百まで生きるためには、生活習慣病と痴呆を未然に防ぐ継続した努力が必要です。人間は有史以来歩いたり走ったりして生きてきた足の良く発達した動物です。右肩上がりの急激な経済成長で、与えられた飢えを知らない文化的生活、石油が一滴も出ない国での自動車三昧、これが単に足を弱くしただけではありません。食生活の中の多くのことが、健康破壊につながっているのです。

白米を食べてビタミン剤を飲み、雑穀混ぜ合わせの健康食品が最高級銘柄米の数倍の値段で売られている現状。自由競争が益々激しくなって、弱肉強食、適者生存、優勝劣敗が当然の世の中になりました。本当にこのままで良いのでしょうか。

ふと、こんな漢詩を思い出します。「粗食を食らい、水をのみ、肘を曲げて枕とす。楽しみその中に有り。不義にして富み、かつ貴きは我において浮き雲の如し」どうやらこれが長寿の極意かも知れません。

厚生労働省 2021年の平均寿命

平均寿命は男性 81.47 年、女性87.57年でした。男性で3割弱、女性の5割以上が90才を迎えています。平均寿命(2021)と健康寿命(2019)との差(日常生活に制限のある「不健康な期間」)は、男8.79年、女12.19年となりました。健康寿命をいかに延ばすかが課題ですね。令和3年簡易生命表の概況

追補 1: 2006年3月9日  がん治療などの医療や老化防止研究が現在のペースで進み普及すれば、人間の平均寿命が2030年までに100歳前後になる可能性が高いとの予測を米スタンフォード大のシュリパド・トゥルジャパーカー教授がまとめました。ただし、恩恵は高価な先端医療を受けられる先進国に限られ、”命の南北格差”は拡大するでしょう。
 同大広報部が明らかにした教授の研究によると、世界各地の人口増加率や経済レベルのデータに、医療や老化防止の進歩と普及の予測を当てはめると、現在80歳前後の先進国の寿命は10年から30年にかけて飛躍的に延び、100歳前後に達すると推測できるそうです。
 しかし、進歩がめざましいがん治療や老化防止研究による医療を受けられるのは今後も豊かな国々の人に限られます。トゥルジャパーカー教授は、アフリカでエイズ問題が深刻化しながら高価な治療薬は先進国に偏在する現実を指摘し「こうした現状を変えなければ貧しい国は(貧困の)悪循環に陥る」としています。
 米医学会には、同教授のように医療技術の進歩を重視し、寿命が延びるとする予想がある一方、米国を代表とする先進各国では肥満問題が深刻化し、糖尿病罹患(りかん)率の増加で今後、平均寿命は短くなっていくとの見方もあります。   所詮人間の寿命はテロメア遺伝子に支配されており、当分、寿命は100歳から120歳が限度でしょう。

追補 2: 2006年4月7日 世界保健機関(WHO)は7日、2006年版の「世界保健報告」を発表しました。それによりますと、04年の平均寿命が世界で一番長いのは日本、モナコ、サンマリノの82歳で、日本は「長寿世界一」の座を維持しました。 男女別では日本女性が86歳で最長寿。男性は日本、アイスランド、サンマリノが79歳で最長寿国。 報告によりますと、04年には世界192カ国中、日本など16カ国で平均寿命が80歳以上。一方、アフリカの26カ国とアフガニスタンの計27カ国は50歳未満でした。最も平均寿命が短いのはジンバブエの36歳。 平均寿命が80歳以上の国の数は前年調査より2カ国増加しました。しかしWHOによれば、平均寿命はその年に生まれた人が何年生きられるかを予測する数字のため、現在の世界的な高齢化の進行を裏付ける統計とは言えないそうです。

追補 3:  2006年7月26日  日本人の2005年の平均寿命は男性が78.53歳、女性が85.49歳で、男女とも前年比で6年ぶりのマイナスとなったことが25日、厚生労働省の簡易生命表で明らかになりました。インフルエンザの流行による死者数の増加が原因です。  国際比較では、女性は21年連続で長寿世界一を守ったものの、男性は前年の2位から4位に下がり、32年ぶりに上位3位から外れました。女性の2位は香港、3位はスペイン、男性の1-3位は香港、アイスランド、スイスの順です。  厚労省は「(インフルエンザという)特殊要因による順位の変動はありましたが、平均寿命が延びている傾向に変わりはない」としています。 男女とも過去最高を記録した04年からのマイナス幅は、男性が0.11歳、女性が0.10歳。男女差は6.96歳で、04年に比べ0.01歳広がりました。  05年生まれの人が将来、死亡する原因となる可能性があるのは男女ともがんがトップ。心臓病、脳卒中を加えた三大死因による将来の死亡確率は男性が56・3%、女性が54・2%で、三大死因を克服したと仮定した場合、平均寿命は男性が8.49歳延びて87.02歳に、女性が7.68歳延びて93.17歳になると見込んでいます。  このほか05年生まれの人が将来どのくらい生きるかを試算したところ、男性では65歳まで生きる人の割合が85・6%、80歳までが55・0%。女性では65歳まで生きる人が93・1%、80歳までは76・8%でした。 日本人の平均寿命は厚労省が統計を取り始めた1947年以来延び続け、女性は60年、男性は71年に古希(70歳)を上回った。平成になってから、男女ともに前年を下回ったのは阪神大震災が起きた95年と、今回同様にインフルエンザが流行した99年だけとなっています。

追補 4 : 2007年5月 世界保健機関(WHO)は18日、2007年版の「世界保健報告」を発表しました。それによると、05年の平均寿命が世界で一番長かったのは、男性はサンマリノの80歳、女性は日本の86歳でした。日本は前回統計まで男女とも「長寿世界一」でしが、05年には男性平均寿命が79歳で2位になってしまいました。
 WHOは男女合計の平均寿命を発表していませんが、男女別の平均寿命を単純平均すると、日本は82.5歳となり、サンマリノの82歳を上回っています。
 男性の平均寿命が長いのはオーストラリア、アイスランド、スウェーデン、スイスで、日本と並ぶ79歳。女性はモナコが85歳で2位、フランス、サンマリノなど計7カ国が84歳で3位です。
 平均寿命が最も短いのは、「データなし」のイラクを除くと、男性がシエラレオネ、女性がスワジランドで、それぞれ37歳。世界193カ国の平均寿命は男性64歳、女性68歳でした。

追補 5 : 【2007年7月27日】  2006年の日本人女性の平均寿命は85.81歳で、22年連続で長寿世界一となったことが26日、厚生労働省が公表した簡易生命表で分かりました。
 男性は79歳で、05年の世界4位から、04年と同じ2位に順位を戻しました。  05年はインフルエンザの流行で男女とも前年を下回りましたが、06年は再び延び、2年ぶりに過去最高を更新しました。厚労省は、日本人の3大死因である、がん、心臓病、脳卒中の治療成績向上が主な要因と分析。「平均寿命は今後も延びていくと見込まれる」としています。  厚労省によると、平均寿命は、05年と比べて女性は0.29歳、男性は0.44歳延びました。男女差は0.15歳縮まり、6.81歳。  国際比較では、女性の2位は香港の84.6歳(05年)で、次いでスペインとスイスの83.9歳(05年)。男性の1位は、アイスランドの79.4歳(06年)で、3位は香港の78.8歳。  06年生まれの赤ちゃんが何歳まで生きるかの試算では、75歳まで生きる人の割合は男性70・3%、女性85・5%。90歳まで生きる人の割合は男性20・6%、女性43・9%でした。  ゼロ歳児が、将来死亡する原因として最も可能性が高いのは、男女ともがんで、心臓病、脳卒中を加えた3大死因による将来の死亡確率は男性が56・0%、女性が53・6%。3大死因が克服された場合、平均寿命は男性が8.31歳延びて87.31歳に、女性が7.2歳延びて93.01歳と予想しています。  日本人の平均寿命は一貫して延びる傾向で、平成以降で男女とも前年を下回ったのは、阪神大震災が起きた1995年と、インフルエンザが流行した99年、05年だけとなっています。 ▽簡易生命表  簡易生命表 各年齢の人が平均してあと何年生きられるかの期待値を表す「平均余命」について、厚生労働省が毎年公表している指標。0歳児の平均余命が、日本人の平均寿命を表す。平均余命は、日本人の人口や人口動態統計などを基に、その年の各年齢の人の死亡率が今後も変化しないと仮定して算出する。今回の公表から、100-104歳についても掲載を始めました。厚労省は、国勢調査による日本人の確定人口を元にした「完全生命表」も5年ごとに公表しています。
追補 6 : 日本、長寿世界一を維持 2009年5月22日
WHOの世界保健統計   世界保健機関(WHO)は21日、2009年版の「世界保健統計」を発表、07年の平均寿命が世界で1番長いのは日本の83歳で、前年までに続いて首位の座を維持しました。 男女別では、日本の女性の平均寿命が86歳で世界一。男性ではイタリア中部にある内陸国サンマリノの81歳が世界一で、日本はスウェーデンなどとともに、80歳のアイスランドに続き3位の79歳でした。 世界全体の平均寿命は71歳で、最も平均寿命が短かったのは西アフリカ・シエラレオネの41歳。長寿国としてはスイスやイタリア、オーストラリアなどが82歳とされ、日本に続いています。 同統計によると、世界全体で05年の妊産婦の死亡率は10万人当たり約400人で、年間約53万6000人が妊娠や出産に絡んで死亡。国連のミレニアム開発目標では、妊産婦の死亡率を15年までに1990年の水準の4分の1まで削減するとしているが、90年からあまり改善が見られなかったそうです。

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