おくすり千一夜 第十六話 易吸収性ビタミンB1物語
ビタミンB₁(チアミン)は最も早く発見されたビタミンで、不足すると神経炎になることで知られ、1926年結晶が分離されました。我が国では鈴木梅太郎博士等が結晶を分離し、分子式を決定いたしました。
その後国外で構造が決められ、特許が取得されたため、我が国でも新規な合成法が開発されましたが、その成果については薬理学書に殆ど記載されておりません。
自然界には色々な動植物、例えばアサリ、ハマグリ、シジミ、ワラビ等にビタミンB1を分解するアノイリナーゼと言う酵素が存在します。これらは調理して食べれば、分解するので欠乏症になることは有りません。
VB₁は吸収に限界があり、排泄されやすく、アノイリナーゼを出す菌が腸内にいると、 VB₁欠乏症になることから、 1952年からVB₁の不活性化を抑える研究が始まり、ニンニクを食べればVB₁の欠乏が起こらないことから、ニンニク中の精油アリシンがVB₁と結合すると、アノイリナーゼで分解されないことを見出し、「アリナミン」(プロスルチアミン)が完成しました。
アリナミンは服用すると呼気にニンニク臭が出るので改良がはかられ、無臭のアリナミンF(フルスルチアミン)の出現となりました。
この誘導体にVB₁活性はなく、体内で解離してチアミンになるので生体内利用率はやや劣ります。一方、塩酸・チアミンに比べ、脂溶性が増し、高い血中濃度が得られるので、易吸収性ビタミンとして各社が研究し、ノイビタ(オクトチアミン)、ビオタミン(ベンフォチアミン)、ジセタミン(ジセチアミン)、コメタミン(シコチアミン)、ネオラミン(チアミンジスルフィド)、ベストン(ビスベンチアミン)、ベストン(ビスイブチアミン)等が合成され、市販されました。
チアミンは生体内でリン酸が付いて「コカルボキシラーゼ」となって初めて生理作用を発揮すると言われております。コカルボキシラーゼそのものも市販されております。第二次再評価の結果、「チアミン」「コカルボキシラーゼ」及び「 VB₁誘導体」の効果は、チアミンの効果として考えるべきとされ、効能・効果は次のように評価判定されました。
1)ビタミンB₁欠乏症の予防と治療、2)食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦、激しい肉体労働時など)、3)ウエルニッケ脳炎、4)脚気衝心、5)下記疾患のうちビタミンB₁の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合、1.神経痛 2.筋肉痛・関節痛 3.末梢神経炎・末梢神経麻痺 4.中枢神経障害(脳血管障害)5.心筋代謝障害 6.便秘などの胃腸運動能障害7.術後腸管麻痺。 5)については、効果がないのに一か月以上漫然と使用すべきではないとの注意書きが有ります。