おくすり千一夜 第十七話 食中毒菌O157にワクチンが
病原性大腸菌O157の毒性を中和し、食中毒を未然に防ぐと考えられるワクチンの開発に、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のグループが成功しました。大腸菌といえば私どものお腹の中にいて、いたずらをしない細菌でしたが、それがいつの間にかベロ毒素という強力な毒素をだし、赤痢菌より恐ろしい細菌に変身してしまったのです。
O157の集団感染は、アメリカでは今から十六年前の1982年に、オレゴン州などで初めて確認されて以来、毎年のように猛威をふるい、アメリカだけで毎年平均二万人が感染し、ベロ毒素に対して抵抗力の弱い子供さんやお年寄りの方々が二百五十人程亡くなっております。
日本でも近年、犠牲者を出したことは記憶に新しい事件です。これまでO157に対しては有効な治療法が少なかっただけに、ワクチンの効果が本物なら、大規模な流行を予防することができ、素晴らしい研究成果といえます。
さてアメリカではどうやってワクチンを開発したかお話しましょう。国立衛生研究所は大変大きな研究組織で、その中に国立子供健康・人間発育研究所があり、ここに所属するショーザン・スー博士らのグループは、最近流行の遺伝子工学の手法を使って、O157の病原菌の細胞表面についているお砂糖が長く連なった多糖類という物質と、これも私たちの身近に存在している緑膿菌(リョクノウキン)と呼ばれる細菌の毒素を無毒化したものとを結合してワクチンを開発いたしました。
このワクチンを人に注射すると、免疫機構が働きだし、てっきりO157の病原菌が侵入してきたものと体の中の免疫系が勘違いしてO157の抗体を作りました。八十七人の成人被験者に、このワクチンを投与したところ、被験者全員がワクチンを投与して約一ヶ月でO157の抗体が投与時の四倍以上に増え、その値は六ヶ月持続しました。
この抗体は、体内へO157病原体が侵入してきても、これを殺すのに十分な量です。もしこのワクチンに副作用が無く、効果が十分持続するのであれば、夏場に起こる食中毒から、私たちはかなり解放されると考えられます。
まぼろしのレバ刺し
残念ながら、上記のワクチンは発売に至っていないようです。
O157を始めとする腸管出血性大腸菌の感染は、今でも毎年のように起きており、1998年から2021年までの24年間に40名の死亡が報告されています。2011年には、焼き肉チェーン店でユッケを食べた181人が食中毒を発症し、5人が死亡したことから、翌年には、飲食店で、牛の生レバー及び豚肉のすべての部位を生食用に提供することが禁止されました。さらに、ユッケなどの材料である生食用食肉も、肉塊の状態で外側を加熱する等、厳格な基準が定められました。参考:東京都福祉保健局
免疫の話題が出ましたので、免疫能について最新の話題を提供しましょう。O157の抗体量も時間と共に減少し、免疫能は落ちてゆきます。免疫能には個人差があり、健康な人も病気になれば低下します。最近はストレスと免疫との関係も解明されてきました。
ガンをはじめウイルスや細菌をやっつけてくれる細胞にNK細胞というのがあります。この細胞の活性について、医学部の学生さんにボランティアーになってもらい、卒業試験の最中と、試験終了二週間後に測定をしてみました。NK細胞活性は、値が高いほどガンなどの悪い細胞を排除してくれるので、病気になりにくいことを意味します。試験中は活性値が全員低い値でしたが、終了後は殆ど全員に活性値の増加が見られました。
また最近、エコノミークラスで大西洋を往復しているビジネスマンはストレス状態にあり、血液が固まりやすくなって高い確率で心筋梗塞や脳梗塞を起こしました。ストレスの解消は、我慢したり、抑圧しないで、好きなことをして、気分転換で発散させてしまうことです。