おくすり千一夜 第二十三話 薬膳と医食同源と
最近、医食同源とか薬膳という言葉をよく耳にします。薬膳が看板のお店で出されるお料理には大きな朝鮮人参の天ぷら、スッポンの生き血、古代米と言われる赤米、植物の種子、さらに色々なハーブがあります。そこで医食同源と薬膳についてお話しましょう。
中華料理とは世界一豪華で、グルメな料理と考えられているようです。理由は、中国の皇帝が大勢の美女に囲まれ、豪奢な生活をしていた時の宮廷料理を想像するからです。日本にある中華料理店でも豪華でグルメな料理をいつも私たちに提供してくれます。
ところが、中国人が考えている中国料理は少々趣が違うようです。中国料理とは、貧窮の極限まで追いつめられた庶民の生活の知恵から出た料理で、食材の利用価値を極限まで追求した、最も合理的な料理と考えているようです。確かに中華料理は丸い鉄鍋が一つあれば全て作れます。
歴史を紐解けばお分かりのように、中国は何千年も昔から戦乱につぐ戦乱で、庶民の食料は根こそぎ掠奪されるのが常であり、戦乱が終れば今度は、暴君による搾取が始まり庶民の手元に食物らしい食物は残りませんでした。庶民はいつも食料の欠乏と、それによる病気との闘いの連続であったと言えます。
その中で庶民が生きて行く道は、廃物同然の食材や野山に住む動物達が食べる草根木皮の中から、食べられるものを捜し出し料理する以外に仕方なかったと思われます。また劣悪な食事では栄養失調で病気になるので、食事が健康に及ぼす効果に細心の注意が払われ、この経験と知識とが庶民の食生活の中に蓄積されていったはずです。
この様な食生活の中から庶民料理の研究が始まり、「廃物の食材や未利用資源を用いて宮廷料理より美味しい料理を作り王侯貴族を見返してやろう」とか「食材をうまく組み合わせて不老長寿の料理を作ってやろう」という意欲が、庶民の「食べ物の恨みに」に支えられ、永い間試行錯誤が続けられ、膨大な経験が庶民の家庭料理に蓄積され伝承されたのです。これが神農様の経験として集大成され神農本草経の形で現代に伝わったというのです。中国人のこの話を参考にすると、奇想天外な食材を使う華麗な中華料理も、自然物を全て薬とみる漢方体系も、その起源は庶民の家庭料理に行きつき、「医食同源」という言葉はここから発生したと考えられます。
漢方の「未治の医術」は未然に治療するという意味で、「医食同源」の「医」は漢方の原点である未治の医術の「医」、「食」は中国の家庭料理の「食」を意味します。
最近、「医食同源」をキャッチフレーズに、中華料理や日本料理に漢方生薬を加えたものが「薬膳」と称して人気を集めておりますが、この様な「薬膳」は食事に薬を混ぜて口に入れるというだけの事で、「医食同服」か「医食同飲」とすべきで「医食同源」はおこがましいと言えます。
薬膳を一度食べただけで効くなら大変結構な事で、一食一万円もする薬膳を三度三度食べられるはずもありません。日常食でも治療食でもなく、グルメ好きのムードを巧みに捕らえた「お遊び料理」と言えましょう。中国で高名な中医(漢方医)に日本の薬膳についてお話したら怪訝な顔をされたのが忘れられません。