おくすり千一夜 第二十六話 五疳薬は狭心症には禁忌です!

六神丸のような五疳薬と医師の処方薬との飲み合わせについて解説しましょう。成人病になると、お薬を一生飲み続けなけなければなりません。

糖尿病も、高脂血症も、高血圧も同じです。また、狭心症などで発作がおき、医師からお薬を頂いた場合、五疳薬をこれまでどおり飲んでよいかどうか心配です。糖尿病や高脂血症のお薬は心臓の働きに直接関係がありませんので、相互作用で問題となるような不都合は考えられません。高血圧と狭心症、あるいは不整脈のお薬は、心臓に直接作用する薬です。そこで高血圧と狭心症の二つの病態について、お話しましょう。 

「高血圧」の評価は管理基準によりますと、少なくとも二回の異なった機会に最低三回の測定を行い、収縮期の最高血圧が140mmHg以下で、拡張期の最低血圧が90mmHg以下の場合は正常1と判断されますが、これらの一方もしくは両方がこの値を越えますと、高血圧症と診断されます。高血圧は加齢と共に血管の柔軟さが失なわれることから発症するもので、初期は肥満を抑え、食塩を制限し、適度な運動をすることで克服できます。これがもう少し進行しますと、薬物療法が必要になります。

高血圧の治療に使われる血圧降下剤と六神丸のような五疳薬との相互作用についての臨床研究は、目下報告が見当たりません。五疳薬中の主成分である蟾酥は心臓の拍出量を高めますので、血圧が高くなる可能性があります。もし医師のお薬で血圧が適正にコントロールされていて、なおかつ動悸や息切れのある時は、血圧に注意しながら五疳薬を服用してみて下さい。動悸や息切れが抑えられ、血圧が高くならなければ連用可能です。高くなるようでしたらお薦めできません。

次が「狭心症」です。心臓は1分間に平均70~80回収縮し、毎回50~60ccの血液を全身に送り出しています。酸素を十分に含んだ血液は、全身に送られて、代謝のエネルギー源となる酸素を供給します。心臓自身に対しても大動脈から冠動脈を通じて心臓の筋肉に血液が送られ、心臓収縮の原動力となる酸素を供給しています。この冠動脈が何らかの原因で、血流が悪くなると、酸素の供給が不十分になり「胸に痛み」を生じたり、全く血液がとだえると、心筋の壊死を起こします。このような心臓の病的な状態を「虚血性心疾患」といいます。前者が「狭心症」であり、後者が「心筋梗塞」です。どちらも大変な痛みを伴います。

五疳薬中の蟾酥は冠動脈を収縮させる働きがありますので狭心症には禁忌です。また「不整脈」もごく初期のストレス性あるいは心因性のもの以外、効果は期待できません。

一時的に服用するかぜ薬や整腸剤、継続服用するビタミン剤と五疳薬との相互作用は殆ど問題になりません。もし心配でしたら、飲む時間を二時間程ずらせるか、五疳薬の服用を一次中止しては如何でしょう。五疳薬と家庭薬やOTC薬との併用に伴うトラブルは、これまで報告されておりません。六神丸は狭心症に使わなければ、きわめて安全なお薬とお考え下さい。

◀︎◀︎表紙へ戻る

  1. 高血圧治療ガイドライン2019では130/80[]