おくすり千一夜 第二十八話 小児の風邪に解熱剤をどう使う?
最近、解熱剤の評価が変わって、数年前から総合感冒薬に含まれる解熱剤は全てアセトアミノフェンになってしまいました。医療機関では軽い感染症や手術後の発熱やワクチン摂取後の不快感を抑える目的で、アセトアミノフェンを処方してくれます。
しかし、心臓も肺も健康な子供に、解熱や痙攣予防の目的で解熱剤を使うのはあまり意味なさそうです。他の解熱剤は勿論、アセトアミノフェンですら感染の回復を遅らせたり、軽症の疾患で抗体が産生されるのを抑えてしまったり、感染症が重篤な場合は羅病率や死亡率を増加させてしまう可能性があるのです。一方、心肺機能の弱い子供には、解熱の目的でアセトアミノフェンを使う必要があります。
では、どんな時に解熱剤を使うのがよいのか、投与量はどれくらいが適正かお話しましょう。
まず、発熱ですが、体が弱く心不全や呼吸不全のある子供では、発熱は体力を著しく消耗しますので、酸素消費と炭酸ガスの産生を抑え、心拍出量を減少させる目的で、アセトアミノフェンの投与が必要です。健康な子供は、熱が41°を越えない限り心配いりません。41°を越えるような高熱では、アセトアミノフェンもアスピリンも効果を期待できません。もっと強力な解熱剤と抗痙攣剤の投与が必要となります。
熱性痙攣については、解熱剤の投与で痙攣を予防できる証拠はないそうです。痙攣は急激な体温上昇によって引き起こされます。そのような上昇は通常、病気の初期に見られることが多いために、痙攣を見て「解熱剤を投与したら痙攣が治まったと誤解」されたようです。
軽症の急性感染症で見られる不快な症状を軽減させるのに、アセトアミノフェンを投与するのは単なる気休めで、効果はあまり期待できません。発熱と不快感とはどうやら別物のようです。その証拠に激しい運動の際、体温は40度近くにもなりますが、不快感は起こりません。
さて、小児の発熱にアセトアミノフェンを用いる場合、体重1kg当たり5mg(5mg/kg)では軽度の体温低下が、10mg/kgでは更に大幅な降下が、20 mg/kgでは一層顕著な体温降下と持続時間の延長が見られます。小児の通常の維持量は、海外では4時間ごとに10~15mg/kg、最大でも1日100mg/kgまでだそうです。
2022年小児用量
「通常、乳児、幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして、体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与する。投与間隔は4~6時間以上とし、1日総量として60mg/kgを限度とす」とされています。
解熱剤投与が有害なことは、繰り返し力説されてきましたが、まだまだ非常に多くの親や医療者が、「感染は悪いことである」「感染すると発熱する」したがって「発熱は悪いことである」と思い込んでいるようです。発熱は感染に対する宿主の反応であり、適度な発熱は免疫状態を改善することが理解されておりません。従って、重篤な感染症の場合に体温を下げる目的だけで薬を与え続けるのは好ましいことではないのです。
いろいろな動物試験や臨床研究の結果から、アスピリンやアセトアミノフェンは、感染症が重篤な場合は死亡率を増大させ、軽い感染症では抗体の産生を抑制してしまう可能性のあることが明らかになってきました。熱がさほど高くなければ解熱剤など飲まない方が予後が良いことをお分かり頂けたでしょうか。