おくすり千一夜 第三十話 魚を食べて長生きしよう
魚介類を毎日食べている人は、全く食べない人より、平均5年程長生きし、いろいろなガン、心臓病、脳血管障害、高血圧、肝硬変などの患者さんの死亡率を減少させることが、1992年までの26万人を対象とした疫学調査で明らかになりました。
事の起こりは、北極地方のイヌイットの人たちは動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞のような成人病が稀なことから、その食生活が注目され、彼らが日常食べている魚やアザラシやトナカイの一種カリブーのような食物には、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれていることがわかりました。1985年にイギリスの先生が「魚を食べる日本の子供は、肉食中心の欧米の子供より知能指数が高い」と発表し関心を集めました。たしかに、DHAが摂取できないと動物の知能に低下がおこり、DHAを含む母乳と、含まれない粉ミルクとで育てられた子供には就学時に差の出ることが証明されていますが、成人に与えて頭の良くなることはありえません。
この二つの物質は、体内で作れない必須脂肪酸のαーリノレン酸から容易に誘導されます。これらの物質は炎症があったり、血栓が形成された時、体の中に現れるエイコサノイド(プロスタグランディン、トロンボキサン)や、サイトカイン(インターロイキンI)のような生理活性物質の生成を抑えるそうです。
以下EPAとDHAの臨床研究の結果を紹介しましょう。
*血漿トリグリセライドは下げますが、コレステロールは下げてくれません。
*四万五千人を対象とした調査から、週一二回魚を食べていると冠動脈性心疾患になりにくいことが明らかになりました。
*二千人の心筋梗塞を起こして回復期にある患者では、再発の危険が減少しました。予防的に働くのは魚の油で他の成分ではないようです。
*心筋梗塞になり冠血管形成術をされた205人の患者では、再狭窄の頻度が減少しましたが、狭くなった血管を風船を膨らませるPTCA治療を受けた患者では予防効果のないことがわかりました。
*関節リウマチ患者の関節痛や倦怠感を軽減することも確められております。
*クローン病が寛解中の患者七十八人を調査したら、再発率が減少しておりました。
*腎不全の原因となるIgA腎症の患者では死亡率が減少し、腎機能の悪化を遅延することができしました。
*乾癬の患者について単純比較試験した結果、痒み、発赤、鱗屑軽快が見られましたが、二重盲検比較試験ではこれが否定されました。
*骨関節炎、アトピー性湿疹、多発性硬化症には無効と思われます。
最近はEPAやDHAを含む健康食品が販売されています。これらの安全性については、喘息の悪化を誘発したり、高用量ではインスリン非依存性糖尿病患者の血糖を上昇させたり、鼻血が出やすく止まりにくくなることがわかっております。
結論として、毎週少なくとも1回、できるだけ油の多い魚をたべることは、冠動脈性心疾患のリスクを減少させるでしょう。但し、魚油製剤を服用することが冠動脈性心疾患を本当に予防するか、血圧を下げるかについては、目下のところ明らかではありません。
追補 1:
【2006年9月29日】 大腸ポリープ:肉から魚にすると2-3割減に—-
名古屋市立大教授ら研究 肉をなるべく魚に替え植物油の摂取量を減らし、旧来の和食を食べるよう指導を受けた人は、そうでない人に比べ、大腸ポリープの発生率が2-3割程度減ることが、名古屋市立大の徳留信寛(とくどめ・しんかん)教授(公衆衛生学)らの研究で分かりました。食事改善の効果が出るには2年程度かかり、徳留教授は「継続した取り組みが大切」と訴えています。横浜市で開催中の日本癌(がん)学会で28日に発表しました。 徳留教授らは96年から04年までに、同大で大腸ポリープを切除された50代から70代までの男女計206人を二つに分け、片方の104人には、肉はなるべく魚に替える、揚げ物を避けるなどの指導を3カ月おきに繰り返しました。残りの102人には脂肪を減らすよう一般的指導をしました。 2年後に検査すると、一般的指導のグループでは検査を受けた74人中27人(36%)にポリープが再発していましたが、魚を多く食べる指導を受けたグループでは91人中26人(29%)でした。推計すると、魚食などでポリープが2-3割減らせたとの結論です。