おくすり千一夜 第三十二話 ここまで知っても アルミを飲んだり使ったりしますか

我が国はいま世界一の長寿国、誠にお目出たいことですが、長寿の裏の暗い面の実感がありません。老人が多いなー!と感じないからです。何処の職場でも六十五歳以上の「老人」はおられますが、比率にして数パーセント、しかも皆さん極めて元気です。しかし近い将来、我が国では老人が急増して、二十八年後の平成三十八年には四人に一人は老人になり、その五パーセントが痴呆という予測がでています。経済大国がはじけて、痴呆大国、寝たきり大国になりかねません。さらに老人一人を支える二十歳から六十四歳までの勤労者数は、現在六~七人なのに平成三十八年には三人を下回ると考えられています。この数字の意味することが、いかに大変な事なのか良くお考え下さい。

全人口に占める老人の割合が七%になると、高齢化社会と呼ばれます。七%から十四%になるのに、フランスで百十五年、スエーデンで八十五年、アメリカで七十五年、ドイツで四十五年かかったのに、日本はたったの二十六年で到達するのです。いま高齢化社会の実感は有りませんが、事態は深刻です。

さて痴呆の話しに移りますが、「アルミニウムが一連のアルツハイマー型痴呆症の原因の一つ」という考え方に対しては目下賛否両論があります。1998年4月20日の読売新聞にも現状が報道されました。痴呆すなわちボケには、いろいろな原因があり、痴呆や痴呆様の症状が出る疾患を下に書きましたが実にたくさんあります。

1)まず神経の変性によるものとして、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン舞踏病、進行性核上麻痺、パーキンソン病、クロイフェルト・ヤコブ病があります。含アルミニウム脳症を含めたアルツハイマー型痴呆症はその一つでしかありません。
2)脳血管障害によるものとして、多発梗塞性痴呆、特殊な部位の脳梗塞・脳出血、ビンスワンガー病があります。
3)内分泌・代謝性の疾患では、甲状腺機能異常、副甲状腺機能異常、低血糖、副腎機能異常、ビタミン欠乏(B1、B12、ニコチン酸)、電解質異常(低ナトリウム 血症、腎不全)があります。
4)肝障害によるものに、肝性脳症、ウイルソン病が;
5)低酸素脳症でもボケてしまいます。
6)薬物中毒では、 睡眠薬、抗パーキンソン病薬、抗癌薬などで痴呆がおこり;
7)手術で回復可能な疾患に、正常圧水頭症、脳腫瘍、外傷、慢性硬膜下血腫が;
8)感染が原因の痴呆に、 髄膜炎、脳腫瘍、進行麻痺、神経ベーチェットなどが;
9)脱髄疾患として、 多発性硬化症などがあり;
10)うつ病が原因のものに、 仮性痴呆があります。

しかし、痴呆を原因別に分類すると、2番目の脳出血や脳梗塞が原因の脳血管性痴呆が全体の43%、次が アルツハイマー病(含アルミニウム脳症)で32%、特定不能なものが25%です。脳血管性の痴呆については、原因が把握できますのである程度予防が可能です。

ボケの三分の一を占めるアルツハイマー型痴呆症については次の事柄が分かっています。まず加齢で、老年痴呆は七十歳代までは全人口の数%ですが、八十歳代では10%を越え、男性より女性が多くなります。近親者に発病者がいると若い内に発症します。

ボクサー症の名のとおり頭部外傷でボケ易くなります。飲料水中のアルミニウムは、最近の疫学調査で疑いが益々強まってきました。また遺伝病の一つでβアミロイドの凝集を促進させるアポE4遺伝子を持つ人や、喫煙者もボケ易いそうです。

アルツハイマー型痴呆症は、脳内で特殊なタンパク質βアミロイドが神経繊維(ニューロン)に沈着して「老人斑」を形成することと、ニューロンが繊維化して、一対の螺旋状によじれた形に「原繊維変化」する二つの特徴が、病理学的に知られております。(アルミニウム脳症では繊維が単一なままなことが分かってきました。)

βアミロイドの低分子モノマーに毒性はありませんが、凝集したアミロイド・ポリマーはニューロンを死滅させる事が明らかになりました。アルミニウムは鉄、銅、亜鉛に比べ極めて顕著に老人斑形成を促進するそうです。

アルミニウムはまたニューロンの膜表面に、大きな穴(イオン・チャンネル)をあけ、神経細胞の中のイオンバランスを崩し、細胞を死滅させ、痴呆を発症させるそうです。一方、トレイスエレメント(微量元素)として人体に必要な亜鉛その他の金属は、このイオン・チャンネルの形成を阻害し、ニューロンを正常に保つ作用があるそうです。

アルミニウムは鍋・釜、食器類にたくさん使われています。ですから、もしアルミニウムが犯人の一人だとすると、私たちは炊飯器を鉄か銅か陶磁器に変えねばなりません。アルミニウムが主成分の制酸剤を飲んだらどうなるのでしょう。水に不溶と言われるレーキ色素も見方を変えればアルミニウムを可溶化し、吸収されやすくなった有機アルミ化合物なのです。

現在までの情報の概略を紹介しますと、イギリス、フランス、カナダなどで飲料水中のアルミニウムとの関係が調べられ、 アルミニウムは「疫学上の危険因子の一つ」と結論されまた。またウサギの脳内にアルミニウムを投与すると、痴呆の脳と類似の組織像が得られました。さらに透析患者に頻発した痴呆症状(透析痴呆)が、透析に使用した水道水や薬剤中のアルミニウムが原因であることが判明したことから、アルミニウムが実際にヒトの脳で痴呆症状を引き起こしうることが明らかになり、アルミニウム犯人説が濃厚になりました。

さて、健康な人はアルミニウム化合物を摂取しても腎臓や肝臓の機能が正常であれば、殆どが排泄されて問題は起りません。しかし、ごく微量は脳に移行することが、確かめられております。この量で発症するまでには数十年かかるでしょう。腎機能が低下すると、血液中にアルミニウムが高濃度に滞留して脳内に入り、脳に排出機能のないことから、アルミニウムの蓄積が起こり痴呆になると思われます。水銀やカドミウムが有機物と結合すると神経毒になることは過去の公害問題で証明済みです。アルミにも同様のことが言えます。

ここで痴呆と脳の老化についてお話しましょう。年をとると誰でもが感ずるのは物忘れが激しくなることです。特に人の名前を思い出せず、いま聞いた名前をすぐに忘れます。「私もボケたかな」と感じたり、言ったりします。しかし、この症状を今話題にしている「痴呆」と同じ意味に用いているなら、それは間違いです。人の名前を忘れるのは、「脳の老化」であって、痴呆ではないからです。

痴呆の典型的な症状についてお話しましょう。先ず現れるのが就寝中の失禁で、そのうち話し方がおそくなり、自分の所持金の額を忘れて多額の買い物をしたり、一人で外出すると帰宅できなくなったりします。しだいに家事、炊事・洗濯・掃除が出来なくなり、寝たきりになって食事や入浴に介添えが必要となり、やがて文字が分からなくなり、会話もできず、最後は喜怒哀楽の感情が消失して植物人間に近づき、身内の顔や名前も判別できない生きた屍となるそうです。万人が同じ経過を辿るわけではありませんが、生理的な老化の症状とは明らかに異なります。

人は年をとれば脳も老化し、脳に萎縮が見られますが、萎縮しても、健康で頭脳明晰な百歳老人は幾らでもおります。正常な老人の脳にも「老人斑」や「原繊維変化」は認められ、病理学的に区別し難いことから、アルツハイマーは脳の老化が何らかの原因で促進されたために起こる病気と考えている研究者もおります。

アルミニウムが原因の一つという説に対する反論もあります。理由は、毎日制酸剤を飲み、アルミ鍋で調理した酸味の料理を食べても、アルツハイマーにならないではないか;また水道水の浄化に、硫酸アルミや塩化アルミが凝集沈殿剤として使われていて問題ないではないかというものです。

たしかに、腎臓の排泄機能が正常であれば、すぐには発症いたしません。その理由は、生物進化の仕組みに遡ることができます。アルミニウムは地殻中で最も多い金属ですが、生物には必要のない物です。必要ないどころか、酵素や遺伝子の働きに異常を起こすので、アルミの侵入を防げなかった生物は過去に絶滅したと考えられます。
 また、人の脳は非常に余裕があって、成長期を過ぎると脳のニューロンが一日十万個づつ減って行くそうです。脳の大脳皮質中のニューロンだけでも百四十億、これを接続するシナプスはその百倍とも千倍ともいわれ、ニューロン同士のつながり方はまさに天文学的な数字です。ですから百歳で頭脳明晰な方がおられても不思議はありません。
さらに脳は十分の一ほどしか使われていないという説もあります。少しくらいダメージを受けても代償作用が働きます。リハビリテーションが良い例です。

疫学調査で危険因子を正確に推定するには、数十年を必要とします。これまでに報告された事実、1976年の透析痴呆事件、脳血液関門の保護を受けない嗅覚のアルミによる障害アルミの強い神経毒性の実験、ケーキの香料マルトールによるレーキ形成と吸収の増大等の基礎研究や、外国におけるこれまでの六つの疫学調査で全て黒であったこと等を勘案すると、「何十年もかかって脳に蓄積されてくるアルミニウムもアルツハイマー型痴呆症の一因である」という仮説に対して、これを反証できる報告は、今のところ見当りません。。

ならば、当面はどうするか。触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。疑わしきは使わない、服用しないことです。アルミ製のやかんや鍋・釜は非アルミ製品に変えましょう。アルマイトの弁当箱が梅干しで穴があいた経験は誰もお持ちのはず。酸味料理には必ず鉄かホーローの容器を使いましょう。制酸剤はどうするか。アルミ化合物より、ナトリウムやマグネシウム化合物からなる制酸剤をお奨めします。牛乳をよく噛んで飲むのも一方法です。重曹は発生する炭酸ガスが胃を刺激するとして使用されなくなり、現在はカマ(酸化マグネシウム)が主流です。錠剤表面の色素アルミニウム・レーキも植物色素か無色にすることで回避できるはずです。

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