おくすり千一夜 第三十三話 白熊の肝臓食べてなぜ中毒する?

ビタミンとは、生命(Vita)に不可欠な窒素を含む物質(Amine)という意味で付けられた名前です。ビタミンには水に溶けるものと、油に溶けるものとがあります。水に溶けるビタミンに、 ビタミンB群と呼ばれる一連の物質があり、それらはチアミン(VB1)、リボフラビン(VB2)、ニコチン酸、ピリドキシン(VB6)、パントテン酸、ビオチン、シアノコバラミン(VB12)がこれに属します。それにアスコルビン酸(VC)があります。水溶性のビタミンは過剰にとっても排泄されてしまうので中毒することは滅多にありません。

油溶性のビタミンには、A、D、E、Kなどがあり、吸収されたものが脂肪組織に蓄積されるので大量に摂取すると中毒することがあります。

ビタミンAを取りすぎた際の中毒の症状は、うとうと状態から始まって、強度の眠気、それに続く頭蓋内圧上昇による激しい頭痛、めまい、肝臓の肥大、嘔吐、そして24時間後には全身の皮膚の剥脱がおこります。

ビタミンAを一度に大量に取った場合、成人では500mg、子供では100mg、幼児では30mg以上の摂取で中毒を起こすと言われております。

北極に住む白熊の肝臓には、きわめて多量のビタミンAが含まれているそうです。肝臓の重さのなんと1.2%がビタミンAです。射止めた白熊の肝臓を食べた人が中毒を起こした話は有名です。

ではなぜ白熊の肝臓に大量のビタミンが存在するのでしょう。人間は勿論冬眠をしない動物は常に食物を摂取できますので、ビタミンやエネルギー源になる脂肪を蓄積する必要はありません。北極の気候は半年は極寒です。餌になる動物を捕るのもままなりません。おまけに熊は冬の間に仔を生み育てます。仔供には母乳を与えなければなりません。その間に取れるのは水分くらいなものです。温帯に棲む熊も冬眠時に仔を生みます。この様なことを可能にするためには、体に大量の栄養とビタミンの蓄積が必要です。

四季を通じて食物を摂取できる人間や動物では、その必要はありません。自然の摂理の素晴らしさ、巧妙さには敬服せざるを得ません。

もう一つ魚ではどうでしょう。肝臓にVAを沢山持っている魚にがあります。では鱈には肝油になる成分がなぜ多いのでしょう。鱈は平目やカレイと同様白身の魚です。白身の魚に共通する特徴は、動きは敏捷ですが持久力がありません。常に移動していて持久力のあるのは、マグロやブリのような回遊魚です。肉は赤味です。平目やカレイは比較的浅い所に棲んでいるので海の中は明るく従って目は余り大きくありません。しかし鱈の棲んでいる海底は深く昼間でも暗い所です。

VAが欠乏すると我々は勿論生物は夜盲症になります。昼でも暗い海の底では暗闇で見える大きな目がないと生きて行けません。餌になるものも浅いところほど多くはないでしょう。目の働きを維持するためには、陸上に棲む動物や浅瀬の魚類よりはるかに大量のVAが必要なはずです。北極熊や鱈の肝臓になぜビタミンが多いか、説明してくれている成書はありません。それぞれが生存に必要だからです。最後にもう一つ、深い所にいる蟹や魚は何故赤いのでしょう。わずかな太陽光線を吸収し易くするためだと言う説があります。しかし深海に棲む生物のすべて赤いわけではありません。それぞれ合理的な方法を使って生きていることが分かります。

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