おくすり千一夜 第四十四話 パイプの煙、その中味
こんな表題だとロマンチックな随筆のようですが、煙の薬理学とでも申し上げた方が良いかも知れません。酒とタバコは我々の日常生活にとけ込んだ嗜好品です。しかしこれら二つの歴史には大きな違いが認められます。酒は古代から人類の生活の中に見いだすことができ、南から北まで何処でもその存在が認められます。「酒は百薬の長」と言ってうまく使えば体に有益になることが沢山あります。一方タバコは「百害有りて一利なし」と言われております。梅毒と並んでコロンブスのアメリカ大陸発見に由来するもので、その後の百年で、各国の政府が禁止したり、時には刑罰まで科したにも係わらず世界中に広がってしまいました。
最近は喫煙と発癌との関わりが証明され、有識者の間では禁煙する人達が増えておりますが、一方で、煙害の正確な知識を知ってか知らずか、若い女性の喫煙が目立ちます。筆者もかってヘビースモーカーで、消化管潰瘍で手術を奨められた瞬間に禁煙した経験があります。その時の禁断症状についてもお話しましょう。
タバコを吸わない人からすると、何であんな不味いものを好むのか理解に苦しみます。口が臭くなり、周囲に居るヒトの衣服にまで匂いが染み着くので、嫌悪感を持たれるのを、喫煙者はご存知ないようです。タバコは発癌と循環器障害を起こすことが知られており、喫煙者の同居人は、そうでないヒトより数倍(3倍),肺機能不全や発癌の危険に曝されていることが疫学調査で明らかになりました。
タバコをくゆらせている姿は一服の絵です。タバコを燃やすと約4000種類もの物質が発生するそうです。その中にはガス状のものと粒子状のものとあり、ガス状でヒトにとって好ましくないものに、一酸化炭素、二酸化炭素、酸化窒素、アンモニア、揮発性ニトロサミン、シアン化水素、揮発性の硫黄化合物や窒素化合物、炭化水素、アルコール類、アルデヒド・ケトン類などがあり、粒子状の成分にはニコチンやタールが含まれております。タールの中には膀胱癌を特異的に発生させるニトロサミンや強発癌性のベンツパイレンなどが含まれており、健康に被害をもたらすものは、主に一酸化炭素、ニコチン、タールであるといわれております。
タバコの主成分であるニコチンの作用は、ヒロポンやコカインより弱く、特異な興奮作用があります。習慣性があって、一度覚えたら止められなくなります。喫煙者がニコチンを吸収すると手が振るえるようになり、脳波にも変化が認められます。
理論的には筋肉を弛緩させ、記憶を促進し、食欲を抑え、刺激に鈍感になると考えられております。タバコを吸うとリラックスな気分になり、頭が冴えてきて書き物などしている時に立て続けに吸ってしまうのも、このような作用に基ずくと考えられます。
タバコを長期間愛用すると、冠状動脈疾患から肺ガンまでいろいろの重篤な病気に罹りやすくなります。病気になる割合は喫煙量に比例し、タバコを吸わないヒトより死亡率で平均1.7倍、1日2箱吸うヒトでは約2倍、煙を肺まで深く吸い込むヒトでは更に高くなります。この傾向は紙巻きタバコを吸う場合が最も顕著で、葉巻はそれ程でなく、パイプでは死亡率が非喫煙者よりほんのわずかに高くなる程度です。一時、紙が燃えて出来るタールが原因だと言う説も出ましたが、葉巻やパイプでは深く吸い込まない習慣があるためと考えられます。
喫煙に関係する心血管系の病気には心臓の周囲を取り巻き心臓そのものに栄養と酸素補給をしている冠状動脈の障害、脳の血管障害、手や足に向かう末梢血管の障害があります。一酸化炭素やニコチンの作用は、動脈硬化や突然の心臓死の原因になるそうです。癌のような悪性新生物の発症は、煙の中に含まれる複数の発癌物質によるものです。喫煙者の多くに見られる慢性の咳や痰は、タバコが蛋白を溶かすプロテアーゼの活性や免疫機構を抑さえてしまって、異物を排泄する作用を弱めてしまった結果です。
女性がタバコを吸うと、流産しやすくなり、生まれた赤ちゃんの体重が不足がちで、妊娠末期に流産や死産になったり、新生児や乳児が突然死を起こすと言われております。以上のような喫煙による障害は禁煙すれば減少し、5~10年で非喫煙者と同じ状態に戻ります。喫煙しないヒトの肺は美しいピンクをしておりますが、タバコを吸うと肺にヤニが付着してチョコレート色になります。禁煙すると数年で元の美しい色に戻ると言われております。
喫煙していると色々なお薬を代謝排泄する速度が大きくなります。この現象を薬物代謝酵素誘導と言います。影響を受ける薬物に喘息のお薬テオフィリン、解熱剤フェナセチン、血液の固まるのを抑えるワルファリン、不整脈のお薬プロプラノロール、抗鬱剤イミプラミン、お茶やコーヒーにもあるカフェインなどがあります。代謝が速くなるために、治療には、より多量の薬が必要になります。また手術時に麻酔の効きが悪くなり、痛い思いをしなければなりません。狭心症のお薬の効果も弱くなることが知られております。
それではニコチン中毒と禁断症状についてお話しましょう。長い間喫煙しているヒトでも、1~2本紙巻きタバコを吸うと血圧が上昇し、心拍数が増加し、手の振えが起こり皮膚温度が降下し、ある種のホルモンが増加したりします。しかし初めて喫煙したときに経験するような、めまい、悪心、嘔吐はおこりません。
禁煙すると禁断症状(離脱症状)がみられますが、その程度はヒトによって様々です。また、どの程度吸ったら身体依存を起こすかという明確な情報はありません。
多くのヒトに共通した症状は、不安、集中困難、眠気、頭痛、食欲増加、睡眠障害、胃腸障害で、脳波をとると覚醒状態を意味する高周波が減少し、眠気や睡眠状態を示す低周波が増加しております。また禁煙に伴い体重が増加し、咳などの呼吸器症状は改善され、促進されていた薬物代謝速度は正常値に近ずきます。
女性の喫煙者の方が男性よりいろいろな禁断症状を訴えるそうです。タバコに対する渇望の程度には日内変動があり、朝より夕方の方が強くなります。
最後に禁煙の仕方についてお話しましょう。方法は即断即実行が良いそうです。徐々に喫煙量を減らそうと努力しても、不快で不満な時間がただ永くなるだけです。ニコチンガムの使用は不安、集中困難および禁煙に伴う身体的不満を軽減してくれますが、不眠、空腹感、振戦、タバコへの渇望は軽減されることはありません。
禁煙をトライしたヒトの約三分の二は数日で脱落してしまい、残り三分の一が禁煙に成功しております。
近頃亡くなられる方の殆どは癌が原因です。癌の場合は天寿を全うして死ぬ形ではありません。 しかも癌で死ぬ確立は年々高くなってきています。それでも貴方は、貴女は喫煙を続けるおつもりですか。
追補 1 : 2001年4月15日の新聞報道から: 「40本喫煙で肺がん死90倍に」
1日40本のたばこを20歳から毎日吸う人は、肺がん死の危険が非喫煙者より約90倍高い!そうです。国立がんセンター研究所の山口直人・がん情報研究部長が、各種統計調査からそんな推計を纏めました。
国の人口動態統計の肺がん死亡データ、日本人を対象にした喫煙率調査、過去約80年間の国内たばこ販売量などをもとに分析したものです。1900年生まれから1951年生まれの人を対象に、各世代ごとに生涯の「累積喫煙本数」の平均値と肺がん死亡率との関係を調べました。
その結果、肺がんによる死亡率は、若い人よりも高齢者の方が高い傾向があり、同じ年齢層の人同士で比べると、肺がん死亡率は累積喫煙本数に比例することがわかりました。
90歳までの間に肺がん死する確率を数値シミュレーションしたところ、肺がん死の確率は、非喫煙者で0.3%なのに対し、20歳から1日に20本のペースで吸う人は16%、40本では28%にのぼるそうです。
山口部長は「肺がんの死亡リスクは、吸い続けた期間と本数に強い影響を受けます。このデータは喫煙者は1日も早く禁煙することが大切であるとともに、若い世代がたばこを吸い始めないよう対策をとる必要があることを示しております」と話しています。
追補 2 : WHOとJT(日本たばこ)が調べた世界各国の喫煙率(%)(2005年)
国 名 | 男 性 | 女 性 |
ド イ ツ | 37% | 31% |
ス ペ イ ン | 34 | 22 |
オ ラ ン ダ | 31 | 25 |
イ タ リ ア | 31 | 17 |
フ ラ ン ス | 30 | 21 |
アイルランド | 28 | 26 |
デンマーク | 28 | 23 |
ノルウェー | 27 | 25 |
スウェーデン | 14 | 19 |
日 本 | 46 | 14 |
追補 2: 2006年4月11日 たばこを吸う人が心筋梗塞(こうそく)などの虚血性心疾患になるリスクは、吸わない人の約3倍だが、禁煙すればリスクを半分以下に下げられるとの大規模疫学調査の結果が発表されました。 喫煙は虚血性心疾患の原因となる血栓の形成や動脈硬化を促すと考えられています。禁煙の効果は2年以内に表れ、研究班の磯博康(いそ・ひろやす)大阪大教授は「たばこをやめれば直ちに血液の状態が良くなる。日本人全員が禁煙すれば、年間約8300人の虚血性心疾患による死亡と同30万5000人の発症を防げる計算」になります。 岩手、秋田、長野、沖縄各県の40-59歳の男女約4万人を1990年から11年間、追跡調査。326人(男性260人、女性66人)が虚血性心疾患を発症しました。 分析によると、喫煙者が虚血性心疾患になるリスクは、非喫煙者に比べ男性で2.9倍、女性で3.1倍。男性では喫煙本数が多いほど心筋梗塞が起きやすく、1日に1-14本の人は3.2倍、15-34本では3.6倍、35本以上では4.4倍でした。 禁煙の効果は禁煙年数によってばらつきがありますが、吸わない人並みまでリスクが下がりました。 虚血性心疾患を起こした男性の46%、女性の9%が喫煙が原因と推定。「吸わないことは、がんだけでなく虚血性心疾患の予防にも重要」です。
追補 3: 2006年5月9日 40歳以上の男性で喫煙しない人は、習慣的に喫煙している人と比べ、自分の歯が20本以上ある人の割合が高いそうです。厚生労働省が8日公表した国民健康・栄養調査では、喫煙習慣と歯の状況の関係を初めて調査され、 それによると、喫煙者の場合、歯が20本以上の人は40代で90・7%いるが、50代は71・5%と減少。70歳以上は22・2%しかいません。 一方、非喫煙者は40代92・6%、50代88・1%と減少幅が小さく、70歳以上も32・3%は歯が20本以上あった。 過去に喫煙習慣があったがやめた場合は、50代、60代、70歳以上の各年代とも、歯が20本以上ある人の割合が喫煙者より高く、非喫煙者より低い値でした。 同様に50代以上の各年代で、「何でもかんで食べることができる」と回答した人の割合は非喫煙者が最も高く、喫煙をやめた人、喫煙している人の順に低下していました。 習慣的な喫煙者の割合は、男性では最も高いのが30代の57・3%で、女性は20代と30代の18・0%でした。
追補 4: 2006年8月5日 たばこ:煙、ダイオキシンと似た働き 耐容摂取基準の200倍–—山梨大研究 たばこ1本分の煙が、細胞内でダイオキシンと似た働きをし、1日の摂取基準を約200倍上回るダイオキシンが細胞に加わった場合と同様の作用を持つことを、山梨大大学院生の河西あゆみさんや、北村正敬教授(分子情報伝達学)らが突き止め、米国のがん専門誌「キャンサーリサーチ」に論文を発表しました。 ダイオキシン類は、細胞内の「ダイオキシン受容体」と結合し、活性化させて毒性を発揮します。 研究チームは、同受容体が活性化すると特殊なたんぱく質を分泌する細胞を、遺伝子操作で作成。市販のさまざまなたばこ1本分の主流煙を、溶液に溶かしてこの細胞に加え、受容体の活性化の程度を調べました。 タール10ミリグラムを含む平均的なたばこの場合、活性化の程度は、ダイオキシン3万9300ピコグラム(ピコは1兆分の1)が受容体と結びついたのに相当しました。体重60キロの人なら、国が定めるダイオキシンの1日耐容摂取量(体重1キロ当たり4ピコグラム)の164倍に当たります。タールの多いたばこでは200倍以上に達しました。さらに、同受容体の活性化で特殊なたんぱく質を作るマウスを作成し、主流煙を直接吸わせる実験や、受動喫煙と同じ状態にする実験をしました。いずれも、活性化が確認されました。 北村教授は「たばこの煙で大量のダイオキシンと同じ害が出るわけではない。だが、遺伝子操作でこの受容体を活性化させたマウスはがんや免疫異常を起こす。喫煙者も同様の心配がある」と警告しています。
追補 5 : 2006年11月28日 2015年にはたばこが原因で死亡する人が10人に1人に達し、30年には心筋梗塞(こうそく)と脳卒中、エイズが死因の上位3位を占めるなどとした世界の死因の将来予測を世界保健機関(WHO)の研究者がまとめ、米医学誌に27日発表しました。 WHO本部のコリン・マザーズ博士によると、WHOや世界銀行などの統計を基に、戦争や交通事故なども含めた30年までの推計で、5歳未満の子どもの死者数が02年から半減する一方、エイズによる死者が280万人から650万人と倍以上になるそうです。 たばこが原因とみられる肺がんや慢性閉塞(へいそく)性肺疾患による死者は、05年の540万人から15年には640万人、30年には830万人と増え続け、15年段階ではエイズによる死者の1.5倍、世界全体の約10%になるそうです。 30年には心筋梗塞が13・4%と1位で、脳卒中(10・6%)、エイズ(8・9%)と続く。02年と比べ1、2位は変わらないが、エイズは4位から浮上。交通事故死も10位から8位へと深刻度を増す。 平均寿命はすべての地域で5歳以上延びるが、日本人女性が88.5歳で世界最高を維持する一方、サハラ以南のアフリカ人男性は55歳に達しないなど、地域格差が大きいままとのこと。
追補 6 : 糖尿病+喫煙=腎症 男性患者のリスク2.1倍に 2007年5月1日肥満や運動不足などが原因とされ、国内の糖尿病患者の95%以上を占める「2型糖尿病」の男性患者のうち、喫煙歴のある人は合併症の「糖尿病性腎症」を発症しやすく、喫煙歴が長く1日の本数も多いほど発症リスクが高いことが、調査で判明しました。これは1日付の米国糖尿病学会誌に掲載されたものです。 糖尿病性腎症は、高血糖が原因で腎臓の中の細い血管の塊(糸球体)に異常が生じてたんぱく尿が出たりする病気で、悪化すると腎不全になります。98年以降、人工透析を始める原因のトップになっています。
糖尿病専門診療所「川井クリニック」(茨城県つくば市)に通院する2型の男性患者357人を平均5・7年追跡調査したところ、106人が腎症を発症していました。 糖尿病発症後の期間や血糖値のコントロール状態などの影響を考慮したうえで喫煙との関係を調べると、現在喫煙習慣のある人の腎症発症リスクは、まったくたばこを吸わない人の2・1倍。今は吸っていなくても過去に喫煙習慣があった場合は1・9倍でした。また1日あたりの喫煙本数が多く、喫煙期間が長いほど発症しやすかったことがわかりました。 喫煙が腎症を悪化させることは知られていましたが、発症自体にも直接影響することが明らかになったのは初めてだそうです。研究チームは「過去に喫煙歴があっただけでも腎症になりやすくなる。糖尿病患者だけでなく、肥満など糖尿病になるリスクの高い人は、一刻も早く禁煙することが重要だ」としています。
追補 7 :生活習慣と健康:死ぬ危険、喫煙で激増 男性1.6倍、女性1.9倍に–厚労省調査 2007年6月1日 健康で長生きするには食べ物や酒、たばこなどの生活習慣をどのようにしたら良いのだろうか。厚生労働省研究班は90年から、生活習慣と健康について10万人規模の調査を続けています。さまざまな習慣が健康にどう影響するか分かり始めており、主な結果を紹介することにします。
◇がん、脳卒中…かかる率高く
■喫煙、飲酒
まず重要なのは「どんな習慣で死ぬ危険が高まるか」だろう。
「喫煙」の欄を見ると、吸う人は吸わない人に比べ、死亡する危険が男性で1・6倍、女性で1・9倍高いことが分かる。病死や事故死、自殺などすべての死因で比べた結果です。海外には、喫煙者は寿命が10年短いとの研究結果があるそうです。
煙草を吸う人は3大死因である、がん、心臓病、脳卒中にかかる危険がいずれも高く、糖尿病の危険も増しましす。
試算によると、たばこを吸わない40歳の男性が100人いると、75歳までに20人ががんになる。吸う男性100人では、同じ期間で約32人ががんになる。大量の飲酒が重なれば、さらに増えるとみられています。
飲酒については、男性の場合、1日3合以上だと死亡の危険が増す。一方、1日1合未満なら、飲まない人より死ぬ危険は36%減るとの調査結果が出ているのです。ただ、飲まない人には病弱な人や、病気で飲めなくなった人が含まれ、死亡が多くなった可能性がある。
女性も男性と同等以上に、飲酒で死亡率が上がる可能性があります。ただ、女性は一般に大酒を飲む人が少ないなどの理由で分析が難しく、明確な結果は出ていないそうです。
◇太り過ぎ、やせ過ぎもNG
■体形
体形も死亡に影響します。太っても、やせても危険が増すのです。男性の場合、BMI=体重(キロ)÷身長(メートル)÷身長(メートル)=30以上と19未満の人は、23-24・9の人に比べ死亡の危険が2倍です。
太れば高血圧や糖尿病にかかりやすくなる。やせると免疫力が落ち、感染症などに弱くなる。中年期は20歳代より太るのが一般的で、男性は23-27程度を保てばよいそうです。女性では明確な結果はありませんが、19-25で死亡が最も少ない傾向がみられました。
食べ物では、塩分や野菜、果物の摂取量が、胃がんの発生に影響することが分かってきました。塩分は、調査対象の男性を食事中の塩分量で5グループに分けると、最も多いグループは、最も少ないグループの2・2倍胃がんになりやすかった。女性では明確な関係は見つからなかったそうです。
◇魚で心臓病リスク減
■食べ物
野菜については▽ほうれん草などの緑色野菜▽かぼちゃ、ニンジンなどの黄色野菜▽キャベツやトマトなど緑黄色以外の野菜—-に分けて調べた結果、どの種類でも週1日以上食べる人は、ほとんど食べない人に比べ、胃がんになる危険が2~5割低かった。果物も週1日以上食べると胃がんの危険が下がっていました。
ですから「野菜は毎食、果物は毎日食べるのを勧めます」。野菜や果物のうち特にどれがよいかは、世界的にも結論が出ていないそうです。
また、魚を多く食べる人は男女とも、心筋梗塞(こうそく)などの心臓病にかかる危険が、少ない人に比べ約37%減。大豆の成分「大豆イソフラボン」を豆腐や納豆、みそ汁などから多くとる女性は、少ない女性より乳がんにかかる危険が54%減などの結果が出ています。
今回紹介した調査結果は主に、岩手県から沖縄県までの10都府県の40-69歳の男女計約11万人に対し、喫煙や飲酒、食事内容などさまざまな生活習慣をアンケートした後で十数年間追跡し、死亡や病気との関係を調べたものです。対象者の年齢や人数は調査ごとに少しずつ違いますが、少ない調査でも約2万人を調べています。
巷では「この食べ物で、がんが防げる」などの宣伝があふれています。しかし、宣伝の根拠は「がん細胞を殺す成分が含まれる」「動物実験で効果が出た」などで、効く成分が含まれる食品といっても、適量の判断は難しい。少な過ぎれば効かないし、多過ぎて害が出ることもありうるのです。動物実験で効果を示した薬でも、人間では効かないことは珍しくありません。
追補 8 : 受動喫煙:認知症の恐れ 長期に及ぶと血管に悪影響—-30年以上で発症率1.3倍
他人が吸ったたばこの煙を吸わされる「受動喫煙」が長期間に及ぶと、認知症の恐れが高まるとの分析を、米カリフォルニア大が公表しました。たばこを吸う人は認知症リスクが高まるとの研究はありますが、受動喫煙と認知症の関係に注目した調査は初めてです。同大は「受動喫煙が血管に影響を与え、発症のリスクを高めているのではないか」と推測している。
認知症の主な原因には、脳梗塞(こうそく)などの血管障害とアルツハイマー病があります。 たばこが中枢神経系に与える影響を探る目的で調査を行い、研究に協力する65歳以上の市民3602人のうち、過去に喫煙歴や心血管疾患がない985人(66-92歳)を6年間、追跡しました。 このうち、受動喫煙があった人は495人で、その期間が30年以上だと、認知症の発症率が約1・3倍になることが分かりました。30年未満の人では、受動喫煙の影響を受けなかった人と発症率の差はほとんどありませんでした。 また、30年以上の受動喫煙者のうち、脳に血液を供給する頸(けい)動脈の狭さくが見つかった人では、認知症を発症する率が約2・4倍とさらに高かい値を示しました。30年未満の受動喫煙者でも約1・3倍でした。喫煙は動脈硬化の危険因子とされ、狭さくもその一種。
追補 9 :【2007年7月24日】 たばこを吸っている男性の40歳時点の平均余命は、吸わない男性より3.5年短い。
1日2箱以上吸う男性の余命は、1箱未満よりも0.9年短く、ヘビースモーカーほど短命の傾向がうかがえるそうです。 喫煙が健康に悪影響を及ぼすことは広く知られていますが、たばこの影響を余命で示したのは国内初の試み。推計の根拠としたのは、1980年に全国300カ所の保健所で健康診断を受けた30歳以上の男女のうち、計9625人(男性4237人、女性5388人)に対する追跡調査です。このうち99年までに死亡した約2000人の喫煙の有無や、年齢別の死亡率などを基に全調査対象者の平均余命をはじき出しました。 それによると、健診時にたばこを吸っていた男性は2666人(喫煙率・約63%)で、40歳の平均余命は38.6年。残る男性のうち、もともと吸っていなかった777人については42.1年で3.5年長かった。 以前は吸っていたが健診時に禁煙していた794人の余命は40.4年。 男性喫煙者のうち1日の本数が「1箱未満」の40歳の平均余命は39年、1~2箱は38.8年、2箱以上は38.1年と、本数が多いほど余命が短くなる傾向がうかがえました。 女性の喫煙率は約9%で、喫煙者(476人)の40歳の平均余命は43.4年、非喫煙者(4793人)は45.6年と、2.2年の差がありました。 男性の場合、喫煙が平均余命に影響していることは明らかです。女性も同様な傾向がみられましたが、調査開始時点での喫煙率が低く明言はできないそうです。
たばこに含まれるニコチンなどが健康に与える影響については多くの研究が行われ、喫煙者はがん、心臓病、脳卒中、肺気腫、ぜんそく、歯周病などの罹患(りかん)率が高いことが知られています。厚生労働省によると、喫煙男性は、非喫煙者と比べて肺がんによる死亡率は約4・5倍、食道がんによる死亡率は約2・2倍。2005年の喫煙率は男性39・3%、女性11・3%。男性は年々減少傾向で初めて4割を下回ったが先進国の中では高い。女性は20代(18・9%)、30代(19・4%)でほかの世代より高くなっています。
追補 10 : たばこを吸う人が減っている
理由についてJTは「健康意識の高まりや喫煙規制の強化が影響したと思われます。退職した団塊の世代が、仕事のストレスがなくなったために喫煙をやめていることも背景にある」と分析しています。 調査は5月に実施し、約1万9200人から回答を得ました。06年に訪問調査から郵送での調査に切り替えましたが、JTは「下落傾向であることは間違いない」としています。
追補 11 : 最近の禁煙情報
我が国では、薬学教員、薬業関係者、医療に従事する薬剤師の中にも、まだ残念ながら愛煙家がおられるので、こんな情報を厭味とお感じの方もおありでしょうが、市民の健康の維持増進にかかわる者としては禁煙問題に関する世界の動向を十分に心得ておく必要はあろうかと思いますので敢えてお知らせします。
総人口6,000万人のうち喫煙人口が約1,350万人といわれ、食事の後に一服を楽しむ国民が多い美食の国フラスでも、遂にこの元日からは、バーやディスコ、あるいはレストランなどの公共の場での禁煙が実施されました。
公共の場でたばこに火をつけるだけで、68ユーロから最高450ユーロ(約7,4000円)の罰金が科せられる他、喫煙を許した施設の責任者に対しても最高750ユーロ(約124,000円)の罰金が科せられます。
フランスでは、既に昨2007年2月に、企業などの職場や、店舗、学校、空港、病院などの公共の場では禁煙が実施されていますので、これで殆どの公共の場では禁煙となりました。ただ、開放されたテラスや強力な換気装置を備えた喫煙室の中に限っては、まだ喫煙が認められてはいます。
EU加盟国における包括的な禁煙は、2004年のアイルランドに始まり、続いてイタリア、更にスペイン、ベルギー、ドイツ、ポルトガルなど、また最近では英国などで実施されています。フランスはこれらに続いたものです。
ですから、これは決して真新しいニュースではないのですが、やはり禁煙運動の拡大としては、”遂に愛煙国フランスでもか”ということで画期的なことだからなのでしょう、Web上で調べてみますと、まさに無数と言ってもよい程に沢山出て来ます。
日本語では、例えば以下のような報道で、この辺の事情をよく知ることが出来ます。
新禁煙令にアートで抗議、仏カフェ経営者が喫煙テーマの美術展開催
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2331942/2493966
に見られるように、ささやかに行われてはいますが、まあ社会の大きな流れにはとても抗し切れないでしょうね。こうしてみますと、やはり日本での禁煙対策は全く生ぬるく、世界に大幅に遅れをとっていると言わざるを得ません。
追補12 : WHOは2008年2月7日、世界各国のたばこ規制に関する初の包括的な報告書をまとめて公表しました。
たばこで年間800万人死亡 2030年までに WHO警告
日本、たばこ安く・喫煙率高く――WHO報告、先進国で突出
追補 13 : 2008年1月25日に製造販売が承認された日本初の経口禁煙補助薬 バレニクリン酒石
酸塩(チャンピックス錠;ファイザー)については、副作用に関して若干の記載をしてはいるものの、メディアにしてもブログにしても、またクスリ情報のサイトにしても、以下のようにこれまで概ね好意的な筆をとっています。
* 「日本初、飲む禁煙補助薬が登場 たばこの満足感を抑制」
* 「ニコチン依存症」治療に飲み薬 効果の反面、副作用も
* 禁煙:飲んで効く、新薬「バレニクリン」保険適用に 吐き気、頭痛…副作用に注意
しかし、医薬品の安全使用を目指す米国の非営利団体であるInstitute for Safe Medication Practices (ISMP)は、5月21日、ファイザー社のバレニクリン(Chantix;日本での販売名は「チャンピックス」)について、使用者で視覚異常、不整脈及び不随意運動などの有害事象の報告があることから、特に安全性が求められる職業に従事するパイロットや、電車やバスの運転手、核施設で仕事に従事する人、あるいはクレーンの運転手などがバレニクリンを使用することには大いに懸念があるとするレポートを発表しました。
これについては、我が国でも共同通信が以下のように報じています。
禁煙薬で意識消失 米航空当局「使用禁止」
このレポートは、年4回、“FDA adverse event reports” で公表される有害事象を分析したもので、2007年の第4四半期にバレニクリンに最も多くの報告例があったほか(2位:インターフェロンβ、3位:エタネルセプト、4位:インフリマキシブ)、米国で承認された2006年5月から2007年12月までに報告のあった3063事例について調べたところ、バレニクリン使用者に自殺企図または自殺が227件、精神神経系の副作用が397件、血糖コントロールへの影響が544件、視覚異常が148件、および不整脈224件などがあったとしています。
この発表を受けて、アメリカの連邦航空局は、パイロットや管制官に対してバレニクリンを使用しないよう通達を行うと、各紙が伝えています。
米国では既に、添付文書において自殺企図などの記載の改訂が行われている他、薬剤師に対しては副作用についての情報を記した“medication guide”の配布を求めていますが、今後は更に注意喚起の強化が行われるものと思われます。日本においても、こうしたリスクを十分に考慮し、危険な職業に従事する人には慎重な使用を促す必要があるでしょう。