おくすり千一夜 第四十九話 メラトニンは睡眠薬?

アメリカに出張された友人からお土産に二種類のメラトニン製剤を頂きました。一つは商品名が「ノックアウト」、良く眠れる睡眠薬でアメリカではブームとのことでした。能書を見ると持続性の二層錠で、睡眠効果についての記載のないダイエット食品です。成分はメラトニンが3mg,何やらわけの分からぬガヴァガヴァエキス、有り難そうなヴェレリアンエキス、それにビタミンB₆,γーアミノ酪酸、グリシンにマグネシウムで、糖分も塩分も人口甘味料や着色料を含んでいないと記載されております。注意書きには「糖尿病や高血圧の方はお使いになる前に医師に御相談下さい」とありました。。

もう一つは商品名「GNCメラトニン」で、1mg含有のカプセル剤。効能・用法は同じで、注意書きには、「大人のみ就寝時服用のこと。妊婦や授乳期の婦人は服用しない。自動車や機械類の操作中にアルコール飲料と共に服用しないこと」とあり、どう見ても睡眠薬には見えません。

そこでこのメラトニンなるものの効果について検索してみました。メラトニンは体の中の松果体で作られるホルモンの一種。その作用については未だ良く分かっていないというのが本音です。

メラトニンに睡眠作用があると考えられるようになったのは、1962年にドイツのアショッフという先生が、ご自身が実験台になり、地下壕に1,2週間閉じこもって実験され、外界から全く遮断された環境に置かれても、生体には一種の時計、体内時計があり、24時間周期のリズムに従っており、睡眠と覚醒とにメラトニンが関与しているらしいことを見つけました。即ち脳の中に睡眠時にはメラトニンが多く存在し、覚醒時にはこれが減少するそうです。また幼児期では分泌量が高く、成長するにしたがって減少して行きます。目に光をあてると松果体でのメラトニンの合成が抑制されると言われております。このメカニズムからすれば、メラトニンが睡眠剤として利用できそうで、ブームとなったのはこれらの研究成果が話題になったからでしょう。

もう一つ、メラトニンには活性酸素によって細胞が障害されるのを抑える働きの有ることから、抗癌作用や抗老化作用があるのではと数年前から話題になりました。

アルツハイマーやパーキンソンのような疾患は、神経の老化に伴って発症し、老化やボケは活性酸素によって神経細胞が障害を受ける事が原因と考えると、メラトニンの抗酸化作用は老化やボケの予防になると考えられます。心臓から脳に送られる血液は全体の20%で、そこで消費される酸素も同様ですから、脳でのエネルギー代謝に伴い大量の活性酸素が発生するはずで、脳の中で障害を起こそうとする活性酸素と、それを防ごうとする抗酸化物質との間に抗争が常に起こっていると考えられます。抗酸化剤として知られているものに、ビタミンCやビタミンE、あるいはグルタチオンという薬がありますが、メラトニンはこれらの抗酸化剤と違って脳血液関門を容易に通過するので少量でも脳の中での効果が期待できます。

しかし、メラトニンだけで睡眠のメカニズムがすべて説明できるわけではありません。人は夜間に分泌が盛んになり、昼間は低いことが確かめられておりますが、夜行動物でも夜間に高いという報告があります。 実験の結果を全てを都合良く解釈することの危険なことがお分かり頂けたかと思います。

薬剤としてのメラトニン

メラトニンホルモンと同じ化学構造式をもつ「メラトベル」が、2020年に入眠改善剤として認められました。適応は『小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善』で、大人は使用する事ができません。

また、2010年に発売されたメラトニン受容体作動薬「ロゼレム」(ラメルテオン)は効果は弱いものの、筋弛緩や記憶障害などの副作用も少ないので、高齢者に有効とされています。

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