おくすり千一夜 第五十二話 カルシウム不足が国を滅ぼす!
骨の主成分はカルシウムです。我々が地球の重力に逆らって飛んだり跳ねたりできるのも骨と筋肉とがあるからです。蛸のような軟体動物には骨がありません。蛸が骨なしで存在できるのは、重力の影響の少ない水中で生活して来たからでしょう。昔の空想小説「火星兵団」に、蛸によく似た火星人がマントを着て出てきました。あれは重力の少ない惑星で、進化した人類の姿を描いたものと想像されます。
宇宙飛行士が長期間無重力の状態に置かれると、筋肉も骨も弱くなることが証明されました。無重力の中で生物が進化したら一体どんな形になるのか想像できません。
さて地球上では、カルシウムの摂取が少ないと骨が折れやすく、骨粗鬆症になるといわれます。普通の体重の人のカルシウム全量は約1kgです。このカルシウムを補給するために一日当たり600mgを摂取する必要があるそうす。飽食の時代と言われる現在でも日本人のカルシウム摂取量は不十分だそうです。
若い頃鍛えて立派な骨格になった人の骨が、何故中高年になり、女性は閉経期が過ぎると、弱く折れやすくなるのでしょう。骨そのものは化石のように硬い変化のないものではありません。生きた細胞から出来ていて、その中に骨を造る骨芽細胞と、骨を溶かす破骨細胞とがあって、骨の新生と破壊とがくり返されており、平衡が保たれているのです。
子供の身長が伸びるのもの、折れた骨を固定しておけば元に戻るのも、老人の背が縮むのも、両細胞の微妙な働きによるのです。老化で骨が脆くなるのは破骨細胞による骨の侵食が優勢になった結果です。ですから骨粗鬆症の治療薬には破骨細胞の活動を押さえようとする考え方に基づくものもあります。
今、日本人全体がカルシウム不足の状態にあり、特に二・三十代の女性のカルシウムは20%も不足しているそうです。カルシウムは単に骨格を保つためにだけあるのではありません。科学の進歩で、色々なことが分かってきました。
カルシウムは骨や歯を作る以外に血液の固まり具合を調節したり、筋肉を収縮や弛緩させたり、心臓を規則的に脈打たせたり、神経から筋肉へ刺激を伝えたり、細胞膜を通過する物質の輸送に関与したり、免疫細胞を活性化したり、ホルモンや体液を分泌させたり、糖の代謝を調節したりして、生命の営みを維持する大切な多くの役割を担っているのです。従って血液中のカルシウム濃度は厳密に一定の値に保たれています。
ですから血液中のカルシウムが不足してくると、からだに異常が現れます。まず副甲状腺ホルモンの分泌が亢進し,骨からカルシウムを抜き取って血液中の濃度を一定に保とうとします。ところが,このホルモンはカルシウムを細胞の中に取り込むため,本来細胞の内と外に存在している大きな濃度差が小さくなって,色々な障害が現れます。骨粗鬆症は勿論のこと,高血圧,動脈硬化,痴呆,神経疾患,糖尿病などが発症し易くなります。子供では成長が遅れ,歯や顎の発育不全が現れてきます。老人では骨粗鬆症に伴う骨折で寝たきり老人が増加し,二十一世紀は大きな社会問題になるでしょう。
今でも骨粗鬆症の患者は全国に五・六百万人いると言われております。この地球上では適度な運動とバランスのとれた食事が如何に大切か御理解頂けたと思います。