おくすり千一夜 第二話 蝦蟇の油は効いたのか

先ずは昔懐かしいガマの油売りの口上を紹介しましょう。

・・・・・「さあさお立ち会い。ご用とお急ぎでない方はゆっくりと聞いておいで。遠出の山越し笠のうち、聞かざるときは物の黒白、善悪がとんとわからない。山寺の鐘がゴオーン、ゴオーンと鳴るといえども、童子きたって鐘に撞木を与えずば、とんと鐘の音色がわからない。さてお立ち会い。手前ここに取り出したるは陣中膏ガマの油。」

ここで油売りの様子を紹介すると絣(かすり)、袴に白たすき、ほう歯に白鉢巻といういでたちの大男で、長さ三尺の太刀を腰にたばさみ、大音声をはりあげて。

「さーて、お立ち会い。ガマと申しましてもただのガマとはガマが違う。関東は筑波山の麓、おんばこという露草を食って育った四六のガマだ。四六五六はどこで見分ける。前足の指が四本、うしろ足の指が六本、併せて四六のガマ。山中ふかく分け入って捕らえたこのガマを、四面ギヤマン(鏡)の箱に入れると、ガマは己の姿が鏡に写るのを見て吃驚仰天、タラーリ、タラーリと脂汗を流す。これをすき取り、柳の小枝で三七、二十と一日トローリ、トローリと煮詰めましたるがこの陣中膏ガマの油。ガマの油の効能は、ひびにあかぎれ、しもやけの妙薬。・・まだある。出痔、いぼ痔、はしり痔、はれもの一切、そればかりか刃物の切れ味も止める」

ここで男は派手に三尺の太刀を抜き放つ。

「取り出したるは夏なお寒き氷の刃!一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が一束(百)と二十八枚。これこの通り、フウッと散らせば比良の暮雪は雪降りの型」

 男が思い切り掌を吹くと一面に紙吹雪が散る。口上は一段と熱を帯び。

「これなる名刀も、ひとたびこのガマの油をつけるときは、たちまち切れ味が止まる。押しても引いても切れはせぬ。と言うても、なまくらになったのではないぞー、お立ち会い!。

このようにきれいにふき取るときは、もとの切れ味になって、これこのとおり」と、腕に刃を当てると赤い血がしたたる。そこにガマの油を塗って、出血をぴたりと止め速効性のご披露に及ぶ。

「さてお立ち会い。ガマの油の効能が分かったら遠慮はご無用。どんどん買ってお行きやれ」・・・・・・

この口上と太刀さばきが珍しくて、時間が経つのも忘れたものである。

蝦蟇の油本舗も1998年、店を閉じてしまいました。もう蝦蟇の油の形で売られることはありません。

しかし伝統ある配置家庭薬「六神丸」の主成分蟾酥(センソ)として、中国から輸入され大量に消費されております。六神丸の薬理効果は「動悸、息切れ、気付け」です。

蟾酥は「蝦蟇の油」そのものです。

蟾酥には麻薬コカインの数十倍の強い局所麻痺作用があり、更に外用では血管収縮と抗炎症作用とが認められており、溶剤の油に傷を保護する作用もあることから、刀傷を負っても出血や痛みも少なく、当時は素晴らしく良く効く塗り薬ではなかったかと推測されます。

センソ(蟾酥)について

センソは「第十八改正日本薬局方 医薬品各条生薬」に収載されています。強心作用・局所麻酔作用などが知られており、口内に直接触れるとしびれを感じるので、この成分を含む薬は噛まずに服用することとされています。(小鬼)


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