おくすり千一夜 第五十三話 ウオークホーリック(Walkholic)のすすめ

アル中患者のことを英語で「アルコホーリックAlcoholic」と言います。毎日歩いていると、頭の中にエンドルヒンとかエンケファリンとかいう苦痛を快感にしてくれる物質が分泌されて、歩くことが苦しいどころか、楽しくて止められなくなります。このような人のことを「ウオークホーリックWalkholic」になったといいます。

筆者も毎日近くの丘陵を歩いており、ウオークホーリックになってしまいました。アル中はお勧めできませんが、ウオークホーリックはお勧めです。 

その訳をこれからお話しましょう。現代人は飽食と運動不足で、殆どの中高年は生活習慣病と呼ばれる高血圧・高脂血症・糖尿病のどれかを発症しているか,その予備軍といえましょう。最近はボケも生活習慣病の中に入れられるようになりました。

人は,二本足で歩くように成ったおかげで手よりも,足の筋肉が発達して数倍大きく重いことが分かります。自然な人の体型は,痩せ形で,引き締まった筋肉が足腰にあり,上半身は脚ほど逞しくないでしょう。イタリア彫刻「ダビデ」の像、あれが理想的な男性の姿かも知れません。

さて,そのような理想的な体と我々とを比較してみましょう。何よりも目立つのは腰から腹の周りの脂肪の膨らみです。お腹の出た姿は決して美しいものではありません。人間は直立して適当な運動、飛んだり跳ねたり歩いたり走ったりするのに適した体形に出来上がっているのです。ある程度の運動を常に行うことが動物である人間の宿命であり極めて自然な事なのです。

文明のおかげで我々は地球上の何処にでも行くことが出来るようになりました。自動車の普及は歩いて行ける所でも車を利用しています。文明が歩行と言う最も基本的な行為を人間から奪ってしまったと言えます。

人間が歩くことを止めたら起こる極端な病態の一つに「エコノミークラスシンドローム」というのがあるので紹介しましょう。エコノミークラスを頻繁に利用して大西洋や大平洋を往復にしているビジネスマンに頻発した症状で、この名が付きました。機内の座席に永いこと座ったままでいると、血液の流れが悪くなり、固まりやすくなって肺塞栓、更には脳梗塞や心筋梗塞を起こすというのです。確かに満席の場合など何時間も身動き一つ出来ないことがあります。

こうした場合、血液凝固系が過度に亢進し、塞栓を起こすのだそうです。対策としては機内でもこまめに歩くことです。エグゼクティブやファーストクラスで、これが起こらないのは座席やその姿勢に余裕があるからで、箱ずめの座席に長時間、体を固定することがいかに不自然で良くないかお分かり頂けたと思います。この事実からも常に動くこと歩くことの大切さを御理解頂けたと思います。これを機にウオークホーリックに是非なりましょう。

単に体を動かせば良いと言うので、コンベアーベルトのついた用具をお使いの方もあると思います。出来れば緑の多い公園や、ある程度起伏のある丘陵を、森林浴をしながら気分良く歩くことが精神的にも肉体的にも望ましいのです。

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有言実行

鬼さんは、脊柱管狭窄症で歩行困難になったこともありますが、手術のおかげで、また楽しんで歩くことがでるようになりました。いまでも自宅前に拡がる丘陵を、毎日のようにお散歩しています。