おくすり千一夜 第五十四話 アルファー(α)波の効用

今の世の中はストレス社会だとよく言われます。人間を含め動物がストレス状態に置かれると自律神経系のなかの交感神経が持続的な緊張状態になります。ストレスから解放されると今度は副交感神経が優位になってリラックス状態に変わります。サラリーマンは緊張の連続で、一日の仕事が終わって夕刻帰宅して初めて緊張から解放される訳です。

人が緊張状態にある時と、リラックスしている時とでは脳波に差が出て参ります。脳は眠っているときでも活動しており、その様子を電気的に捕らえることができます。それが脳波です。脳波と言われるように波の形をした電位が現れ、波形が無くなった時が脳死です。脳波は周波数によって大きく三つに分類されます。

第一は目覚めている時の脳波で「ベーター(β)波」といいます。緊張状態にあるとβ波は増加します。逆にうつらうつらしている時には「ツェーター(θ)波」が出てきます。θ波を眠りに近い安らぎの脳波といいます。これが第二の脳波です。

さて覚醒していてもリラックスの程度に応じて一秒間に8ないし13ヘルツ(Hz )の周波数である「アルファー(α)波」が持続的に現れます。これが第三の脳波です。α波は更に三つに分類されます。

比較的周波数の高いのが、α-3 で周波数は11.5~13ヘルツ、これを集中α またはファーストアルファといい、思考を一点に集中し暗算や暗記をするときに出る学習に最適な脳波です。

次がα-2、 周波数は9.6~11ヘルツで、アイデアα またはミッドα といい、リラックス状態で頭が自然に活動し問題解決に役立つ直感力やひらめきが出る脳波です。

最後がα-1で 周波数は7.5~9.0ヘルツ。休息α またはスローα といい、ストレスを解消し脳のエネルギーを貯える美容と健康に必要な休養脳波です。

アルファー波、とくにα-1 が出やすい状態とはどんな時でしょうか。それは自然の中に身をゆだねた時です。我が国の四季は変化があって素晴らしく、自然の中に身を置くことでリラックスできます。小川のせせらぎの音、梢を渡る風の音、小鳥のさえずり、波の音、虫の音、全ての音色が我々に安らぎを与えてくれます。これらは聴覚を刺激するものですが、視覚によるものに木漏れ日、白波の立つ海岸、雪景色。嗅覚では、木や花の香り、味覚でリラックスするならグルメを楽しむことです。

音楽はどうでしょう。テンポの速い曲よりもゆっくりしたものが効果があるようです。筆者は尺八を嗜みますが、お琴と合奏する「三曲」よりも、お経にも喩えられる「本曲」の方がリラックスできます。またゆっくりした民謡や童謡も良いでしょう。選曲はその時の気分に影響されます。悲しい気分の時は、より悲しい曲を聴くと慰められますし、嬉しい時は楽しい曲を聴くほうがストレスの解消には良いそうです。

リラックスできた状態というのは、副交感神経が優位の状態を意味します。この状態に到達するのに、上述のように自然の中に身を置いたり、音楽を聴いたりする方法がありますが、これ以外に訓練によってもリラックスすることができ、自律訓練法と言って今盛んに行なわれています。気功なども緊張状態にある人を適当な手段を使ってリラックスさせ、頭痛や手足の痛みを除いていると見ることもできます。

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尺八の効能

鬼さんは、鬼と呼ばれた薬剤部長時代に尺八をよく吹いていました。今から思えば、戦場のような職場でしたから、心と頭を守るための大切な道具だったのでしょう。最近は、テレビのコーラスや懐メロを、一緒に歌って楽しんでいます。