おくすり千一夜 第五十九話 近眼のすすめ

先日庭木の手入れをしていて目にゴミが入り、ゴロゴロが取れないので町の眼科医に受診しました。既応症の聞き取りから始まって視力検査、果ては眼低検査まで始めたのには驚きました。こちとらは目に異物が刺さっているのか、否かが知りたいだけです。文句を言ったらようやく大先生がお出ましになり、ガラスの水差しで目の中を洗って下さいました。

幸い洗っただけで目のゴロゴロは治まったのですが、昔は洗眼はお作法のようなものでした。最近は洗眼はしないそうです。目は涙液で常に洗われているから、余程でない限り洗眼の必要は無いとのことでした。

そこで気になりだしたのがコンタクトレンズです。目の表面は常に涙液で洗われ、涙液による角膜表面からの栄養補給と排泄が行なわれて角膜や水晶体が正常な状態を保っているのに、コンタクトレンズでこの流れを遮断してしまったら、目のために良いはずがありません。栄養補給と排泄が出来ないだけでなく、細菌感染の危険が高まります。

先日(1999.7.30)も日本コンタクトレンズ協会によってレンズの消毒剤に関する自主基準が作成されたばかりです。

メガネを嫌うのは女性が多いようです。美容上メガネは邪魔ものなのでしょう。ところで、眼科医の多くはメガネをかけているのは何故でしょう。外科医なら手術の時などコンタクトの方が便利だろうと思われますが、メガネをかけて手術をするそうです。どうやらコンタクトレンズは功罪あい半ばしていることがお分かり頂けたでしょうか。

もうひとつ眼科医の友人から指摘されたことがありますので御紹介しましょう。それは「近眼のすすめ」です。近眼は必ずしも不利益ばかりではないそうです。

人は四十二の厄年当たりから老眼が始まります。老眼とはレンズである水晶体の伸縮性が悪くなって扁平に伸びた状態を言います。反対に近眼は収縮過剰の状態を意味します。だから老眼には凸レンズが、近眼には凹レンズが使われております。近視の人に老眼が始まると膨らんでいた水晶体の伸縮性が無くなって扁平になるので中年以降は、裸眼で生活できる期間が可成り永く続きます。乱視も老眼が始まると消えてしまう場合が多いようです。ですから青年時代大いに勉強して軽度の近眼になるほうが、メガネを必要としない期間が永いから望ましいと言う訳です。

平均寿命の延びた現在では特に意味があります。筆者も五十前後から自動車の運転時眼鏡不要になり、以来二十年の今でも裸眼で生活しております。これは若い人達に是非知って頂きたいことです。つい先日テレビで近眼をレーザーを使って手術した話が放送されました。この患者さん、老眼になったら、また手術で治してもらうおつもりでしょうか。その時は近視の手術のようなわけには行きません。

話は別ですがもう一つ。気になることがあります。読書やパソコンで疲れて充血した目は冷やすべきか、暖めるべきかです。目を冷やす用具は目下大流行です。目薬も疲れを取ると言って塩酸ナファゾリンという血管収縮剤が含まれております。冷やしたり、目の血管を収縮させても疲れは取れません。逆に蒸しタオルのようなもので暖め、血行を良くして老廃物を取り除いてやる方が早く回復するのです。

それから市販の目薬の中身をみると、ビタミンAやビタミンEそれにコンドロイチン硫酸のような成分が含まれています。確かに目の栄養分ですが、それなら目にエネルギーが必要だといって、目で御飯を食べることは出来ません。煮凝りの出来る魚や、八つ目鰻でも召し上がったほうが目薬を注すより遥かに効果的なのです。

追補 : 2006年5月16日 米コンタクトレンズ大手ボシュロムは15日、ソフトコンタクトレンズの洗浄・保存液「レニューモイスチャーロック」を使った場合、真菌性角膜炎に感染する可能性を完全に否定できないとして、世界市場からのリコール(無料の回収・修理)を決定、販売を中止すると発表ました。

ボシュロム・ジャパン(東京都品川区)によると、同製品は日本では未発売。日本で販売している洗浄・保存液「レニュー」や「レニューマルチプラス」は有効成分が異なるため、問題はないとしています。4月、米国のコンタクトレンズ使用者に角膜炎発症が相次ぎ、感染者の多くが「モイスチャーロック」を使用、ボシュロムは米国内への出荷を停止しておりました。

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