おくすり千一夜 第六十九話 コレステロールなんか恐くない!

定期検診や人間ドックの検査通知をみると、それぞれの検査値に正常範囲が記載されており、その範囲を超えた項目に警告マークが付いてきて要注意とか、治療が必要とあります。コレステロール値も220mg/dlを越すと警告マークが付きます。

実は、筆者は十年ほど前、定期検診で指摘されました。初めは血清総コレステロールが240程でした。運動で体重とコレステロールを下げるよう医師の指示があり、忠実に実行してきましたが、年々上昇し、270に達したので、四年前からメバロチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)を服用して、現在220と240の間を上下しております。

治療を続けている理由は「高いコレステロール値はリスクファクターで、動脈硬化を起こし、虚血性心疾患などの成人病になる可能性が極めて高くなるから、これを下げなければならない」と筆者自身思っていたからです。この考え方はコレステロール元凶説と言い、世界的に通用する学説です。根拠となる事実は今世紀初めウサギにコレステロールを食べさせたら血管に沈着したというアニスコフの報告が最初で、その後アメリカのフラミンガムという町での疫学調査が現在まで続いており、その結果からコレステロール元凶説は不動のものになりました。

それが最近怪しいことが分かってきました。フラミンガム研究の内容を詳細に再検討したところ、事実はそれ程単純でないことが明らかになってきました。
コレステロール値と他の危険因子とを組み合わせて解析してみると以下のような事実が浮かび上がってきました。

即ち単純にコレステロールの値と虚血性心疾患の発症頻度を比較すると、コレステロール値の高い程、発症頻度も増加して見えますが、危険因子と考えられる糖尿病、高血圧、喫煙、心電図異常の四因子を考慮して並べ変えてみると、危険因子の数が多い程発症率の高くなることが分りました。そして仮にコレステロールも危険因子の一つに加えたとしても値の高いことによる影響は、ごくわずかだったのです。

血清総コレステロールが300mg/dlを越す値でも、血圧が正常で糖尿病がなく、たばこも吸わず、心電図に異常のない場合は発症率はきわめて低い値です。逆に血清総コレステロールが200以下であっても高血圧と糖尿病があり、タバコを吸い、心電図に異常がある場合に高コレステロールの人に比し、数倍の高率で発症することが明かになりました。

またコレステロール値が同じで危険因子のない人に比べ、高血圧で、かつ糖尿の人の発症率は6倍になり、さらにタバコを吸えば9倍に、左心室肥大があれば15倍にもなることが分りました。

このような事実が解析されてみると、沖縄やコ-カサスにいる長命な老人達に意外とコレステロール値の高かい人達がいることは、単なる例外ではなく、自然な状態だったこともうなずけます。

これまで行なわれた最も信頼できる疫学的調査にMultiple Risk Factor Intervention Traial という研究があり、大規模で調査対象者に偏りがない条件下では、コレステロール値の違いや食事療法の有無では発症率に差異はなかったそうです。コレステロールは食事療法では低下しないことも明らかになっています。この事実、コレステロール悪玉説を皆さんはどう思いますか?

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鬼さん その後のコレステロール値

後の話題で出て参りますが、鬼さんはこの後、故浜崎智仁先生のご意見に賛同し、メバロチンの服用を中止しました。そしてn-3系脂肪酸を多く含む「しそ油」を愛用するようになりました。2010年から18年までの検査データ(採血時刻は不明)を見ると、総コレステロール:255~281、中性脂肪:141~189といずれも高い値を示しています。91才の現在でも、コレステロール等の薬は服用していませんが、虚血性心疾患や脳卒中などは起こしたことがありません。血圧が正常で糖尿病がなく、たばこも吸わない自らの身体で、「コレステロールなんか怖くない!」を証明しています。