おくすり千一夜 第七十話 欠乏予防から過剰の予防へ
平成11年6月、厚生省から第6次改定日本人の栄養所要量が発表されました。詳細はこちらのとおりです「第6次改定日本人の栄養所要量について (mhlw.go.jp)」。この改定は明12年度から5年間使用されるものですので、あらましを御紹介しましょう。
改定の主旨は、これまでは「欠乏症の予防を主眼としてきたが、今回は過剰摂取への対応をできる限り考慮した。」と言うものです。
そして食事摂取基準では50%の人が必要量を満たすと推定される1日の摂取量を平均必要量とし、97~98%の人が1日の必要量を満たすのに十分な摂取量を栄養所要量とし、ほとんどすべての人に健康上悪影響をおよぼす危険のない栄養素摂取量の最大限の量を許容上限摂取量として定義しています。
注目される改正点を列記しますと、「脂肪所要量」の項では脂肪エネルギー比率が成人で20~25%とあります。この意味はエネルギーとして利用させる脂肪は全エネルギーの四分の一程度にせよと言うことです。残りの四分の三は糖質と蛋白質で取れという意味です。
また脂肪の成分については「飽和脂肪酸(S)、一価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)の望ましい摂取量はおおむね3:4:3を目安とする。さらにn-6系多価不飽和脂肪酸とn-3系多価不飽和脂肪酸の比は、健康人では4:1程度を目安とする。」と記載されています。
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸はラードやバターのような常温で固形のもの、多価不飽和脂肪酸はてんぷら油やサラダオイル、或いは魚油のような常温で液体の油を意味します。多価不飽和脂肪酸には炭素の鎖が6個おきに二重結合をしているn-6系と、3個おきに二重結合しているn-3系とがあり、前者をリノール酸、後者をα-リノレン酸といいます。
これらの摂取率をそれぞれ上記のように3:4:3、あるいは4:1にすることを厚生省は推奨しております。あぶらの摂取比率については今「油脂栄養革命」という言葉で象徴されるような常識を覆す大変な変革が進行中で、油脂の栄養学を専門とする学者の間には、その科学的、疫学的根拠からこの比率に異論を唱える先生方が大勢おられますので、改めて解説させて頂きます。
次に気付いた点はビタミンB1です。所要量は意外と少なく成人男子で1日1mg、女子で0.8mgでした。日本人はこれまで必要以上のB1を大量に消費させられていたことがお分り頂けると思います。それから葉酸とビタミンB12が目につきます。これは二十一世紀は老人大国になるので、痴呆の予防を目的とするものと思われます。
次はビタミンCの所要量が意外と多いことです。成人で1日100mgになりました。筆者は1日30mg程度と記憶しておりましたので驚きましたが、ノーベル賞をもらったポーリング博士の主張される1日数グラム説はともかくとして所要量が増えたことは望ましいことと申せます。
最後に無機質(ミネラル)に上限が定められました。カルシウムは2,5g、鉄が40mg、リン4g、マグネシウム700mg、銅9mg、ヨー素3mg、セレン250μg、亜鉛30mg、クロム250μg、モリブデン250μgでした。カルシウムやマグネシウムはお薬の中に賦形剤や制酸剤として含まれる場合が多いので、この数値が服用する際に安全の指標になることを望むものです。