おくすり千一夜 第八十話 日焼け止めクリームのなかみ
我々に恵みを与えてくれる太陽の光も、過剰に浴びれば日焼けを起こします。若い女性が海水浴場などでオリーブ油を塗って日光浴をしている姿を夏場見かけますが、太陽の少ない北欧ならともかく、少々心配です。特に皮膚科の先生が最近問題にするのは紫外線です。一口に紫外線と言っても中身は色々で、波長の短いものから順に、短波長紫外線をUVCと言い、波長は200~290nm。次が中波長紫外線でUVB、波長は290~320nm 。最後が長波長紫外線でUVA、波長は320~400nmとなり、可視光線400~800nmへと連なって行きます。
化学反応を最も起こしやすいUVCは、地球を包んでいるオゾン層で吸収されてしまうので、地表にまでは到達いたしません。今冷蔵庫や自動車のクーラーに使われていたフロンガスが大気中に捨てられ、その影響で南極のオゾン層が破壊されつつあり将来が心配です。
UVBは紅斑やメラニン色素を誘発する力が最も強く、日焼け、皮膚癌、皮膚の老化を起こします。
UVAの効果は弱く、UVBの1000分の1程度だそうです。しかしより深く皮膚に浸透し、皮膚の光老化や光線過敏症を誘発するそうです。
スキーや春山登山の際に日焼け止めクリームを塗ると、殆ど焼けないので助かります。そこで日焼け止めクリームの成分と規格についてお話しましょう。
紫外線を遮断する方法には物理的なものと化学的なものとがあります。物理的なものにはUVA、UVB、可視光線をよく反射、散乱させる粒子がよく、これらの成分には酸化チタン正しくは二酸化チタニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、塩化第二鉄、イクタモールなどがあります。最近は超微粒子化した二酸化チタニウムが普及しているようです。
化学的に光を遮断する物質としては、透明で紫外線を吸収する性質のあるもので、p-アミノ安息香酸エステル、ケイヒ酸の塩類、サリチル酸類はUVBに対して、ベンゾフェノン、アントラニ-ル酸類、アボベンゾンはUVAに対して防御効果があるそうです。通常はUVBに対する効果の大きいものが優先され、市販製品の多くは、幾つかの素材の組み合わせからなっているようです。
日焼けに対する効果は光防御因子sun protection factor (SPF)係数によって表されます。例えばSPF-15の日焼け止めは、これを使用しない時に比べて15倍の日光照射に耐えられるものです。30では30倍の効果があるそうです。
最近はSPFの数字がどんどん大きくなり70とか80というのも見受けられますが、発汗その他で減弱するので、戸外で直射日光を受ける場合には、こまめに塗り直すことをお勧めします。
大部分の人は起こりませんが、アトピー体質の人では接触性皮膚炎や光接触皮膚炎を起こす場合があります。また、一部の製剤には紫外線吸収剤に刺激性があり、これに過敏な方は使用できない場合が起こってきます。スキーでしたら、ゴーグルと覆面で完全にカバー出来ますので、問題ありません。
追補 1:
2006年9月15日】 メラニン色素の阻害酵素を発見、しみ・そばかす防止に期待—-理研・東北大 皮膚や髪を作る細胞にメラニン色素が輸送されるのを妨げる酵素を、理化学研究所と東北大の共同研究グループが見つけました。メラニン色素は紫外線で遺伝子が傷つくのを防ぎますが、しみやそばかすの原因にもなります。輸送を妨害して肌の美白を保ったり、促進して白髪を減らす方法の開発に役立ちそうです。米国の生化学専門誌(電子版)に、論文が掲載されます。 メラニン色素は、皮膚に紫外線が当たると表皮の内側の細胞で合成され、膜に包まれた袋に蓄積されます。この袋が、皮膚や髪を作る別の細胞に輸送されると肌や髪が黒くなります。
研究グループの福田光則・東北大教授らは2年前、「Rab27A」と呼ばれるたんぱく質がメラニン色素の輸送に不可欠なことを解明しました。「Rab27A」は、働いて輸送を促す場合と働きを失う場合を繰り返し、輸送を正常に保っていると考えられましたが、仕組みは分かりませんでした。 グループは今回、たんぱく質の働きを失わせる可能性があると考えられた酵素40種類を、マウスの培養細胞に1種類ずつ加えて実験しました。すると、ある一つの酵素を加えた場合には、メラニン入りの袋が細胞の中心部から広がらなくなったのです。袋は通常、中心付近で作られて周辺に輸送されますが、その酵素を働かせると、輸送が阻害されました。
この新酵素は、ヒトの皮膚や毛根でも機能している可能性が高く、この研究がさらに進むと肌の美白維持や白髪の発生を止めることが期待されます。 近い将来、しみ、そばかす、白髪に悩む人々を救うことになるかもしれません。
詳細はこちらから見ることができます。 https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2006/20060914_1/220060914_1pdf.pdf