おくすり千一夜 第八十四話 にきびの虫はみんなのペット
風邪で家でゴロゴロしていたら、テレビでニキビダニに関する番組を報映しておりました。健常人の何んと97%の人の顔にダニが寄生していると言うのです。顔を清潔にしておられて、ニキビなど全く見当たらない奥様やお嬢様の殆どに、ダニの寄生していることが街頭でのテストで確認されました。検出方法は至極簡単。頬と鼻の境目の辺りを少々強く押すと毛穴から脂肪が吹き出てきます。これを採取してガラス板につけ、アルコールのような溶媒に溶かして小型の顕微鏡で覗けば見ることが出来ます。
形はトンボのヤゴのように腹の部分のやや長いのと、丸い形をしたものの二種類があるそうです。街頭で確認されたのは主に胴ながの方でした。筆者も戦前の生物学の本に「ニキビの虫」という名前で紹介されていたのを覚えています。
ニキビの虫の学名は「毛包虫」です。毛包虫には、Demodex folliculorum とDemodex brevisの2種類があります。通常「ニキビダニ」と呼ばれているのは前者です。ともに脂腺のある毛包内に寄生、常在しております。ですから皮膚科の先生からみればごく当たり前のことなのです。
宿主であるヒトとの生理的な均衡が破れますと病原性を発揮し、毛包炎をおこします。これが「毛包虫性座瘡」です。青春の象徴であるニキビにも、こんな隠れたお友達がいたのです。ヒトの体調がよければダニは悪戯をしません。細菌が入り込んで化膿すると大変です。
ニキビが気になる程度の軽症では運動などをして血行を良くし、免疫能を高めることで自然治癒するものです。どうしても除去してしまいたい方は、イオウカンフルローションをお使いになると良いでしょう。イオウは硫黄華ともいい、越後の「毒消し」と同じものです。カンフルは樟脳です。これを水に分散させたものが「イオウカンフルローション」です。お薬で徹底駆除もよいですが、仲良く付き合うのも大切です。宇宙的規模で見れば、我々人間も地球表面に異常繁殖したダニのようなものではないでしょうか。