おくすり千一夜 第八十七話 厚生省は誰の味方か!
「健康日本21計画」というのが、先に厚生省から発表されました。内容は喫煙率を10年後には今の半分にしようというものです。それがタバコ業界や栽培業者の圧力で計画が撤回されるそうです。
筆者は先に第四十四話の「タバコの煙、その中味」で喫煙の害について解説しました。その概要を再度申しますと、タバコは「百害有りて一利なし」と言われ、梅毒と並んでコロンブスのアメリカ大陸発見に由来し、その後の百年で、各国の政府が禁止したり、時には刑罰まで科したにも係わらず世界中に広まったものです。
喫煙により発癌と循環器障害を起こすことが証明され、有識者の間では禁煙する人達が増えております。 喫煙者の同居人は、そうでない人より数倍この危険に曝されていることが疫学的に明らかになりました。
喫煙でおこる病気には冠状動脈の障害、脳の血管障害、末梢血管の障害があります。一酸化炭素やニコチンは、動脈硬化や突然の心臓死の原因になるそうです。癌のような悪性新生物の発症は、煙の中に含まれる複数の発癌物質によるものです。女性がタバコを吸うと、流産しやすくなり、生まれた赤ちゃんの体重が不足がちで、妊娠末期に流産や死産になったり、新生児や乳児が突然死を起こすとも言われております。
禁煙すると禁断症状(離脱症状)がみられ、共通した症状には、不安、集中困難、眠気、頭痛、食欲増加、睡眠障害、胃腸障害があります。
禁煙方法は即断即実行が良いそうです。徐々に喫煙量を減らそうと努力しても、不快で不満な時間が永くなるだけです。ニコチンガムの使用は不安、集中困難および禁煙に伴う身体的不満を軽減してくれますが、不眠、空腹感、振戦、タバコへの渇望は軽減されることはありません。禁煙をトライしたヒトの約三分の二は数日で脱落してしまい、残り三分の一が禁煙に成功しております。
国民の健康増進を目的とする厚生省が、関係団体の圧力に屈して、計画を撤回するとは言語同断です。それも即全面禁止ではありません。十年かかって半分にしようと言うのですから、随分なまぬるい推進運動です。
この計画が上手く行った場合、現状維持と比較して、何人の人が予想される疾病から解放され、それが経済的にどれ程の利益となるのか、疫学調査に基づいた予測を厚生省は公表すべきです。それは関係業界がこうむる被害額より遥かに大きなものになるはずです。
生活習慣病と言われる疾病のリスクファクターに「喫煙」がカウントされており、タバコを吸うことは、高血圧や糖尿病を放置しておくのと同程度に危険であることを、厚生大臣は自覚していないようです。業界代表者の言い分も「禁煙は各自の責任においてなされるべき」とのことでした。小泉元厚生大臣や石原知事のように小気味よい行政手腕を発揮して頂きたいものです。
最近のFDA(アメリカの食品薬品局)の新薬許可基準は、小数の患者で重篤な副作用が発現しても、遥かに多数の患者の命を救うことができれば、その薬を認めているように思えてなりません。今回の撤回騒動は、関係業者よりも、高額なタバコ税収入の減ることを恐れた政府自身の思惑が働いた結果ではないでしょうか。