おくすり千一夜 第九十一話 太り過ぎと痩せ過ぎと
厚生省が発表した平成10年の国民栄養調査結果によりますと、今から約二十年前と比較して、男性はいずれの年代でも肥満が増加し、とくに若い世代の男性に約2倍の増加が見られたそうです。一方若年の女性ではやせ型の割合いが増加しているだけでなく、適正体重の範囲以下を理想とする「やせ指向」が増えているそうです。どちらも困った現象です。
以下その実態を紹介しましょう。調査は約5000世帯、1万5000人を対象に実施されました。肥満の指標であるBMI(身長の2乘で、体重を割る)が25以上を我が国では肥満症と定義しております。「肥満」の割合を二十年前と比較すると、十代後半の男性では6.0%から11.4%と倍増して十人に一人の割合になり、二十歳代では9.2%から19.0%と五人に一人が。そして三十歳代では16.3%から30.6%と三人に一人が肥満症で、いずれも倍増しているそうです。
一方、女性では、60歳代、70歳代で若干肥満が増加しているものの、逆に若年層では「やせ」、筆者に言わせれば痩せ過ぎ(BMI18.5未満)、が顕著に増えているそうです。
女性の「やせ」の割合を二十年前と比較すると、十代後半では13.5%が20.4%に、二十歳代でも14.4%が20.3%と、いずれも五人に一人。そして三十歳代では漸く9.2%から12.8%と八人に一人の割合で「やせ」過ぎが認められたそうです。また、体型に対する自己評価では、女性ではBMI値が正常範囲内なのに自分では太っていると感じている人が過半の58,1%、やせ過ぎなのにそれを「普通」と感じている人が50.8%で大半の女性が、現実の体重より5キロ程低い体重を理想としていることが分りました。
男性は女性程、自分の体型について感心を示してないようで、アメリカと違い、我が国では「太っていると自己管理能力がない」という社会的評価はあまり聴かれません。お相撲さん以外、強度の肥満症が欧米に比べて少ないことも、BMIに感心の薄い原因のように思われます。
片や、若い女性のやせ形指向は話が違います。正確に調査したわけではありませんが、第一の理由がスタイルを気にしてのことでしょう。平均身長が低く胴長短足の大和民族では西洋人に見られる長身の八頭身美人は願うべくもなく、標準値以下に痩せることで、相似形になろうと努力しているように思われてなりません。
狩猟民族と農耕民族では座高に差がないとしても、脚の長さだけはあと何世代か経ないと追いつけるものではありません。やせて相似形になろうとすることには生理的に無理があり、気力、体力、精力、免疫力全てが低下するだけでなく、間違えば栄養不良や拒食症にもなりかねません。
一般に太っている人の方が性格は温順で、何事にもくよくよしないものです。痩せている人は概して神経質、他人の言動を気にし、抑制の効かない人が多いようです。健康美とは、スポーツや労働で、ある程度鍛えた筋肉の上に、ほどほどの脂肪がついた水泳の選手のようなスタイルを言います。異性が相手を見る目は、美しい着物を着た時のスタイルでなく、着物から中に隠れている身体の健康な美しさを想像していることを理解すべきでしょう。健全な精神はやや太めの健全な身体に宿ると筆者は言い換えたいものです。
追補 : 2006年6月、エビデンスの程は明らかではありませんが、次のような記事がありました。
その1 中高年の男女とも高い痩せの死亡率は標準体格の人の倍以上!
その2 ダイエット中の母から生まれた子どもに肥満児が多い! いずれもショッキングな内容です。理由は明確ではありません。