おくすり千一夜 第九十七話 セサミンの生理作用を覗いてみると

ゴマはインドやエジプトが原産で、漢の時代に中国に伝わり、現在アジア各地で栽培されています。医林纂要という医学書に「胡麻は、陰を滋う、胃を補う、大小腸を利す、肝を暖め、目を明らかにし、血を涼め、毒を解く」と記述されており、食べるだけでなく薬としても用いられてきました。他の植物と違って長期間保存しても発芽し、含まれる油が酸化されないことから抗酸化物質の存在が予想されておりました。 

セサミンは胡麻油のなかに1%程含まれ、同族体リグナンの中では最も多量に含まれる成分ですが、試験管中では活性を示さないため、最近まで注目されませんでした。

セサミンが△5不飽和化酵素を特異的に阻害することが明らかになって以来、多くの研究が報告されるようになりました。それらセサミンの生理作用を纏めてみますと:

1)脂肪酸の代謝調節作用

セサミンはアラキドン酸の生成を抑制するそうです。その理由はセサミンが△5不飽和化酵素(炭素と炭素を二重結合にする酵素)を特異的に阻害するので、起炎物質の元であるアラキドン酸の生成が抑えられるそうです。さらに最近の農水省食品総合研究所では、セサミンが血液中の中性脂肪を減らすメカニズムを解明したそうです。セサミンは脂肪酸合成酵素の活性を抑え、分解酵素の活性を高めることが確認されました。

2)血清コレステロール低下作用

動物や人間の実験で、セサミン投与で血清コレステロールおよびLDL-コレステロールがコントロールに比し有意に低下しました。血清コレステロール低下のメカニズムは、小腸からのコレステロール吸収阻害と、HMG-CoA還元酵素の活性低下の両作用で、コレステロールの生成を阻害していると解釈されます。

3)肝保護作用

お酒の飲み過ぎは脂肪酸の代謝に障害を与え、脂肪肝を生じることが知られております。セサミンはエタノール代謝を促進し、脂肪酸のβ酸化を促進するので、酒による肝障害を予防できる可能性が分りました。

4)化学発癌抑制作用

一つ前のお話で紹介致しましたように、化学物質ニトロソアミンによる発ガンをセサミンが抑制することが認められました。すでにDMBA(Dimethyl-benz-anthracene)という乳癌発症物質を使った場合も、セサミンには有意な乳がん細胞増殖抑制効果が認められております。このときセサミンは抹消血単核細胞の活性を上昇させ、血漿のプロスタグランジンE2の濃度を有意に低下させたそうです。これらはセサミンの脂肪酸代謝調節に基づく免疫調節作用で発癌が抑制された可能性を示唆するものです。

5)セサミンの体内動態

セサミンは腸管吸収されたのち主に門脈経由で肝臓に入り、肝細胞内で代謝されカテコール体となって胆汁中に排泄されることが分りました。

6)セサミンの抗酸化作用

1957年にHarmanによってフリーラジカル老化原因説が唱えられ、近年、活性酸素やフリーラジカルによって生体が障害を受け、これが種々の疾病、発癌、さらには老化促進の原因になることが報告されました。ですから活性酸素やフリーラジカルを消去するビタミンCやビタミンEのような抗酸化剤は健康維持に重要と考えられておりおます。

抗酸化剤は、大きく水溶性と脂溶性に区分されます。水溶性物質としては、ビタミンC、尿酸、ビリルビンなどがあり、脂溶性のものには、ビタミンEやカロテノイドなどがあります。水溶性の抗酸化剤は水相中のラジカルを速やかに消去しますが、生体膜やリポプロテインなどの脂質層内のラジカルを消去することは出来ません。これに対して脂溶性の抗酸化剤は脂質層内にあるラジカルを効率的に補足できるそうです。

酸素を最も多く消費する肝臓では、活性酸素およびフリーラジカルが多量に発生すると考えられ、セサミンが肝臓で顕著な抗酸化作用を示す理由は、肝臓内での活性体へ変換されることに有ると言えます。即ち、経口摂取されたセサミンは肝臓に特異的に取り込まれ、そこで代謝され抗酸化の本体と考えられるカテコール体セサミンになり、活性酸素やフリーラジカルに対して強い消去活性を示すものと考えられます。セサミンはまさに理想的なプロドラッグだったのです。

7)激しい運動をした時のセサミンの抗酸化作用

人に偽薬を服用させて運動をさせると、血漿中の過酸化脂質が有意に上昇しますが、セサミンを服用させた時はこの上昇が完全に抑制されました。セサミンは体内でできる過酸化脂質を有効に押さえることがわかりました。

8)セサミン併用時のビタミンEやDHAの利用率の向上

セサミンは同時投与したγ-トコフェロールの血漿中濃度を上昇させ、ビタミンEの活性を高めたという報告があります。ビタミンEの利用率を向上させることで更に強い抗酸化作用、生体防御能を発揮すると考えられます。また、セサミンをDHAと併用すると、併用群はDHA単独投与群に比べて血漿中の過酸化脂質濃度が有意に低下したそうです。過酸化脂質が起炎物質であることはすでに紹介しました。

以上を総轄しますと、セサミンとビタミンEとDHAを適切に摂取すると、それぞれの効果が相乗的に高まることが期待できます。二十一世紀の健康食品、いや「治療食品」として、この三成分の合剤がリノール酸取り過ぎの先進諸国でブームになるのではと考えるのは筆者一人でしょうか???

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