おくすり千一夜 第五十七話 驚異のアミノ酸タウリンの謎

タウリンの入ったドリンク剤が良く飲まれています。しかも含有量が年々増えて2000mgも入った新製品が発売されています。このドリンク剤は本来、滋養強壮保健薬で「ビタミン主薬製剤」の範疇に入るものです。

なぜタウリンがこれほどまで話題にされるのでしょう。タウリンの薬理、生化学的な性質についてはまだまだ解明されていない部分が沢山あります。そこでこの謎の多いタウリンについてお話しましょう。

タウリン(アミノエチルスルホン酸)は、1827年Tiedemannによって仔牛の胆汁中から発見された硫黄を含んだアミノ酸の一種です。タウリンはコール酸類と結合してタウロコール酸となり、脂肪の吸収を助ける胆汁として消化管内に分泌されます。タウリンは必須アミノ酸ではありません。従って必ずしも食物から採らなくても体内で自家生産され補給される成分ですが、色々な臓器に対して極めて大切な働きのあることが判るにつれ、イメージ商品として製品化された体内物質なのです。

例えば新生児が誕生して最初に口にする母乳の中には、大量のタウリンが含まれております。これは何を意味するのでしょう。タウリンの少ない人工乳で育てられた赤ちゃんは本当に大丈夫なのでしょうか。こんな塩梅です。 

血液の白血球の中には血漿中のなんと五百倍もの高濃度でタウリンが含まれ、病気や栄養障害、ストレス、薬物の服用で含量が変動するそうです。

また肝臓を劣悪な条件(虚血、低酸素)下においても、肝機能の恒常性を保とうとし、心臓での効果と同様、臨床上の有用性が認められております。医療用医薬品として認められている効能効果はうっ血性心不全と高ビリルビン血症における肝機能の改善です。

タウリンは脳や神経の発達に大きな影響をもっており、特に視覚や視神経の発達に重要な役割を果たしております。権威ある薬理書の中にも脳の神経にはタウリンが多量に含まれ、神経伝達物質の働きを調節していると言われております。

さらにタウリンには定性的ではありますが、緩和な降圧作用があります。またコレステロールの吸収を阻害する作用はありませんが、血液中および肝臓中のコレステロール値を下げる作用が有り、血液中の線維素を溶解する酵素の活性を高め、動脈硬化を抑える作用のあることも分かってきました。

一方、自律神経系の働きにも関与しており、視床下部のタウリン量が増えると体温が下がったり、食物の摂取量が少なくなったりします。そして中枢神経に対しては抑制的に働くと言われており、テンカンの痙攣を鎮めるとも言われております。さらにタウリンは脳の動脈硬化によって低下した脳の酸素圧を改善したり、飲酒による注意力の低下を防ぐとも言われております。

第二次大戦中、海軍のパイロット達は疲労回復のためにヒロポンとともにタウリンを服用したり、目にタウリンが多く含まれることから、これを服用して視力を鍛え夜の戦斗に役立てたと言う逸話もあります。

動物の発情期にはその合成能が高まるので、性能力とも深い関係のあることがわかります。

このように複雑広範な作用を持つタウリンが医療用医薬品としてあまり用いられないのは、何故でしょう? それは健常人では欠乏症が稀にしか発生しないからです。ただ肝硬変になると、タウリンの欠乏による「こむら返り」が頻発し、タウリン末の経口投与で回復するそうです。欠乏例の少ない物質にパントテン酸があります。ビタミン類として医薬品集に記載されておりますが、欠乏症例は余り聞きません。上に述べた色々な症状も治療が必要なら対応した定量的に効く優れた別の薬剤が存在しております。

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