おくすり千一夜 第七十四話 生活習慣病はサラダオイルの採り過ぎから!
こんな表題を見たら「いい加減な事を言うな」と立腹される方もあると思います。かく言う私もサラダオイルやてんぷら油は、いくら食べても余程過剰でない限り問題はないと信じておりました。厚生省もWHOも油をとるなら動物性のラードより植物性の油をとるよう勧めております。食用油を買いに行くと、お店に並んでいるのは「リノールサラダ油」とか「紅花オイル」のようなものばかりです。それが、諸悪諸病の根源はリノール酸をたっぷり含んだこれら植物油だと言うのですから大変です。一大事件です。革命と言っても良いでしょう。とりあえずどんなに良くないものなのか内容をあげてみましょう。
1)あぶらの過剰摂取と成人病
まず,あぶら(油脂)の過剰摂取が最も成人病と関係が深いことが疫学的に証明されました。究極の味、美味なるものは,実はあぶら漬け料理なのです。私どもは戦前と比較すると油の摂取量は現在十数倍に跳ね上がっています。多分1日4グラムで充分なのに60グラムも摂っているのです。
平成11年6月、厚生省は日本人の栄養所要量を発表しました。その中で脂肪の成分比については「飽和脂肪酸(S)、一価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)の望ましい摂取量はおおむね3:4:3を目安とする。さらにPの中のn-6系多価不飽和脂肪酸とn-3系多価不飽和脂肪酸の比は、健康人では4:1程度を目安とする。」と記載しています。多価不飽和脂肪酸には炭素の鎖が6個おきに二重結合をしているn-6系のリノール酸と、3個おきに二重結合しているn-3系のα-リノレン酸とがあり、両者の摂取率の比を4:1にすることを厚生省は今推賞しております。
ところがこの4:1の比率は、現在の日本人の摂取比率そのままを表現した値なのです。厚生省は現状で良いのだと言っているのです。油脂栄養学を専門とする先生方は1:1が適当と考えておられます。
事の起こりは北極地方のイヌイットの人たちは動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞が稀なことから、その食生活が注目され、彼らの常食である魚やアザラシやカリブーのような食物には、α-リノレン酸が豊富に含まれていてリノール酸との摂取比率は1:3と逆転していることが分かりました。
現在我が国では糖尿病が戦前の十倍近く増加しております。この増加が遺伝子の変化に基づくとはとても考えられません。犯人はサラダオイルの主成分リノール酸ではないかと考えられているのです。ではなぜリノール酸がいけないのでしょう。
2)リノール酸は炎症を誘発する起炎物質のもと
三大栄養素と言えば糖質、脂質それにタンパク質です。糖質は分解されてエネルギーになり、余れば体脂肪として貯えられます。タンパク質も分解されてアミノ酸になり、血となり肉となるのですが、脂質は単にエネルギーになるだけではありません。多くのホルモン様物質に変化し複雑な生理作用を発揮しているのです。
飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は体内で糖質やたんぱく質から作られますが、主にエネルギー源になり、また細胞膜の構成成分にもなっています。
多価の不飽和脂肪酸の内、リノール酸は種子中に含まれます。市販の油類は殆ど種子を絞ったものです。リノール酸は体内で変化を受け、中間にアラキドン酸という有名な物質になります。このアラキドン酸から生理活性の強いホルモン様物質(具体的にはプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなど)の「エイコサノイド」や「炎症性メディエーター」が作られます。リノール酸の取り過ぎが体内に過剰のエイコサノイドを作り、生活習慣病を発症させているのだそうです。
一方α-リノレン酸は、葉や根や植物プランクトン或いは藻類によって作られます。α-リノレン酸を摂取すると、近頃話題のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に変化して、身体のいろいろな組織に運ばれます。この三種類の脂肪酸は体内で相互に変換することはないそうです。ですからEPAやDHAはリノール酸からは作られません。
植物油の主成分はリノール酸で、これが実は炎症を起こす起炎物質の素だったのです。その結果,平均的な日本人の体内には数キログラムのリノール酸が貯まっていると考えられております。α-リノレン酸は起炎物質の作用を適切に調整し、抑制していることが分かってきました。ですから摂取量のバランスが必要で1:1が望ましいというのです。
3)ガンも成人病もアレルギーも起炎物質が関与
リノール酸の取り過ぎがガン・成人病やアレルギー過敏症を増やしているという研究結果が出てきました。アレルギー性の炎症のメディエーター(媒介物質)はアラキドン酸です。抗炎症剤と言うお薬の作用はアラキドン酸から誘導される起炎物質の発生や作用を抑えるものなのです。
炎症が持続すると高ガン状態になり、発ガンを促進させると言います。その意味でリノール酸はガンの発生を促進すると言えます。現在のリノール酸摂取量は、発ガンを促進するのに充分な飽和に近い値だそうです。またリノール酸はガンの転移も促進するそうです。月見草油を動物に投与したら発ガンや脳卒中の発生を促進したそうです。欧米型のガンはリノール酸の取り過ぎが原因と言われております。
炎症がガンの発生や進行を促進するなら、抗炎症剤は逆に抗ガン作用があると考えられます。事実そのような効果が認められつつあります。
4)その他の作用
それだけではありません。リノール酸の過剰とα-リノレン酸とのアンバランスが成人の呼吸困難症や肺炎や気管支炎による死亡増加の背景因子であるとも言われております。
更に膠原病や自己免疫疾患のような難病の発症も,うつ病、若者の「すぐきれる」という行動パターンの背景もリノール酸の取り過ぎが原因ではないかと言われているのです。
では何故こんな事態になったのでしょう。昔、人はその土地や海から取れるものだけを食べて生活していました。しかも常に飢餓に曝されていたと言えます。平和のお蔭で私共は世界中の食物を手に入れることが出来るようになりました。寒帯に住む動植物中の油は固化しないように出来ているのです。
私どもの食生活はお米を除けば殆どが南の暖かい土地で大量にとれるものばかりです。長い間に順応してきた食生活が戦後50年で大きく変わり、特に油はリノール酸大過剰の食事に変わってしましました。テレビのコマーシャルに「はやくかえろう日本食」というのがありますが、筆者もこの言葉にだけは賛意を表します。
追補 : 2006年3月27日 魚の脂肪に多く含まれ、日本でもサプリメント(健康補助食品)として販売されているオメガ3脂肪酸が、心臓病やがんなどの予防に効果的だとする明確な根拠はないとの研究結果を英イーストアングリア大などの研究班がまとめ、24日の英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(電子版)に発表しました。 魚の脂肪は一般的に心臓病予防に効果があるとされ、英政府も国民に摂取を勧めています。しかし、研究班は害の有無についても調べる必要があるとしており「狭心症などの人は、念のため、多量の摂取は控えた方がいい」としています。 研究班は、これまでに発表されたオメガ3脂肪酸に関連した89の研究を、精度なども考慮して再分析。健康増進効果があるとの結論を最終的に導き出せなかったほか、精度の高い研究ほど同脂肪酸の摂取と疾病予防との因果関係が薄い結果が示されていたそうです。より長期で精度の高い研究が必要だと指摘しています。
オメガ3脂肪酸の効果
厚生労働省は、現在のところ「海産物の摂取による健康的利点に関してわずかな根拠はありますが、オメガ3サプリメントの健康的利点は明確ではありません」と結論づけています。詳細は厚生労働省eJIM | オメガ3脂肪酸について知っておくべき7つのことでご覧ください。