おくすり千一夜 第七十五話 肥満は病気です!

世界保健機関(WHO)は二年前から肥満は栄養障害の一種と捕らえ、肥満対策のための運動を開始しました。我が国でも1999年日本肥満学会が「東京宣言」を発表しましたので、その前文と宣言を紹介しましょう。

前  文 :

肥満や過体重が、津波のように日本や西欧を中心とした世界の人々を襲い、健康のみならず社会的、経済的な面で大きな負担と損失をもたらしている。このような情勢に臨み、WHOは国際肥満研究連合(IASO)と協力して、世界的規模で先進国のみならず後進国も含めて肥満対策運動を開始している。

日本では、WHOの分類によるBMI 25以上の過体重と肥満の出現率は約20~24%で成人の4~5人に1人が既にあてはまる状態である。この数字は今後とも増加を続けるものと予想される。なお、BMI 25は日本での生活習慣病合併の危険の高まる数値である。さらにこの津波のような動向は、子供の世界を飲み込む勢いである。

肥満や過体重は、人々の日常行動を制約するが、真の恐さは合併症の併発にある。3,300万人の高血圧患者、2,000万人の高脂血症患者、690万人の糖尿病患者など、代表的な生活習慣病の3割から6割が肥満や過体重に起因しており、その上、これら疾患による動脈硬化の危険因子の集積が心筋梗塞、脳梗塞の増加に結びつき、医療費の増加に拍車をかけている。この危機は、国民の身体活動の低下と食生活の変化を反映したものであり、生活スタイルの改善を促進し健康的な生活を取り戻すことが急がれる。

このような実態にもかかわらず、日本では肥満に関連した疾病の予防と管理、肥満になった成人や子供の管理に対する総合的な国家対策が行なわれていない。我々はこれまで、多くの医学・医療の危機を克服してきた。今日、直面する肥満や過体重の危機も、英知と行動によって回避しなければならない。日本肥満学会は第20回東京大会開催を機に、肥満の対策の重要性を再認識し、以下の行動を起こすことを宣言すると共に、立法および行政機関に対し、支援をお願いするものである。

宣  言 :
1. 肥満と過体重が、日本における多くの重篤な疾病の基盤となり、医療的、経済的負担の最大の要因となっていることを実証すると共に、国民および行政機関の認識を高めるよう努力する。
2. 肥満についての正しい医学的知識の啓蒙のための広報活動を全国規模で展開し、国民に広く理解を求める。
3. 肥満の成因や病態に関する研究活動を推進し、科学的根拠に基づいた肥満の対策を確立する。
4. 肥満に対する質の高い医療専門スタッフを養成すると共に、健康サ-ビスの供給施設の増設に協力する。
5. 最後に、以上の活動の達成のために、立法および行政機関の支援を要請するものである。

読者の皆さん「東京宣言」をお読みになって御自身は肥満病の範疇に入るのかどうか判断できますか。

BMI 25の意味をお話しましょう。これは世界的に通用する値で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)=肥満度指数(BMI)で計算されます。この値の意味は、人間の比重を1と見なし、一辺が身長の長さの正方形の升の中に広げたらどれくらいの厚さ(mm)になるかという数値とみると理解しやすいでしょう。

22が正常の標準値、18.5≦~<25が正常範囲、25≦~<30を肥満度 I、30≦~<35を肥満度 IIと、以下数値が5を増すごとに肥満度が重症になってゆきます。

例えば身長165センチの男性でBMIが標準値22であるためには体重は60キロでなければなりません。痩せとの境界域18.5は51キロ、肥満との境界域25だと68キロとなります。ですから60キロ±10%、すなわち54キロから66キロの範囲内にあれば正常と考えて良いでしょう。

それでは身長155センチの女性ではどうでしょう。標準値は53キロ、下限は45キロ弱、上限は60キロですから、48から58キロの範囲内にあることが望まれます。

この上限値はWHOの基準より幾分低い値ですが、日本のような農耕民族は内臓脂肪が蓄積していく段階で、西欧よりかなり高頻度で生活習慣病が出現してくるそうです。

BMI22に比して25では高血圧などの危険が倍近く高くなるので、合併症がなくとも肥満症と考えられております。従って合併症が一つでもあれば立派な肥満症という病気です。合併症には1.糖尿病 2.高脂血症 3.高血圧 4.痛風のような高尿酸血症 5.心筋梗塞・狭心症のような冠動脈疾患 6.睡眠時無呼吸症候群 7.脂肪肝 8.脳梗塞 9.変形性関節症・腰椎症のような整形外科的疾患 10.月経異常、不妊症が考えられるそうです。

BMIを1減らすことができれば、糖尿病の発症率は7~8%抑制できるとの予測があります。これで肥満は病気であるという東京宣言の意味を御理解頂けたと思います。

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