おくすり千一夜 第九十四話 α-リノレン酸は治療食品?
世はまさに健康食品ブームです。ざっと挙げてみましょう。
体重が気になる方に! キトサン
トイレのちかい方に! ノコギリヤシエキス
美容と健康に! ローヤルゼリー
民間伝承の滋養食品! 有精卵黄レシチン
健康で若々しい毎日のために! プロポリス
話題のキノコ! アガリスク
頭の栄養、魚不足の方に! DHA
物忘れが気になる方に! いちょう葉エキス
視力が気になる方に! ブルーベリー
体力に自信、明日への活力! スッポン
高純度! サメの軟骨
一匹丸ごと粉末化! 本まむし
内から輝く美しい素肌こそ女性の魅力! コラーゲン
海のミルク! カキエキス
インドの不思議な植物ハーブ、甘党の方に! ギムネマ
スタミナ補給に! 八つ目うなぎ
緑黄色野菜不足の方に! クロレラ
高純度99.9%! 深海鮫エキス
おなかすっきり! ビフィズス菌
幻のキノコ! 冬虫夏草
古代より珍重! 霊芝
みなぎるスタミナ! 無臭ニンニク
このような健康食品の広告を眺めていると、あれもこれもと欲しくなり、食卓に幾つもの瓶が並んでいるご家庭をよく見かけます。
この中で日本人の殆ど全ての方にお勧めの健康食品が一つあります。それは未だ限られた所でしか売られておりません。治療目的で摂取が必要なのですから、健康食品を通り越して「治療食品」とでも名付けた方が良さそうです。それはα-リノレン酸を多く含む「紫蘇油」です。筆者はすでに「生活習慣病はサラダオイルの取り過ぎから」の所で解説しましたので、後から出た科学新聞(2000.2.25)の記事をそのまま記載して、その重要性を読者の皆さんに繰り返し訴えたいと思います。
コレステロールや動物性脂肪は動脈硬化・心疾患の主因子ではなかった!
中央酪農会議は二月九日、パレスホテル(東京・丸の内)で奥山治美氏(名古屋市立大学薬学部教授、前脂質栄養学会会長)を講師に「コレステロールや動物性脂肪ではなかった_動脈硬化・心疾患の主因子」をテーマに講演会を行なった。
コレステロールの取り過ぎは動脈硬化や心臓病の原因になるという考え方から、油は植物油というのが常識になっているが、実は悪いのはリノール酸ではないかということが最近の研究結果からわかってきたという。
奥山氏はマーガリンや植物油に多く含まれるリノール酸の過剰摂取によるガン、動脈硬化、心臓病、アトピー(アレルギー)や、”キレる性格”の形成等について検証した。
食用の油は三つに分けることができる。
1. 飽和・一価不飽和脂肪酸系列=動物性脂肪(バター、牛脂)、パーム油、オリーブ油など。
2. リノール酸=紅花油、マーガリン、マヨネーズ、月見草油、発酵油など。
3. α-リノレン酸=魚介類、シソ油、フラックス油、エゴマ油など。
この中で飽和・一価不飽和脂肪酸(オレイン酸を多く含む)は、脂質性炎症メディエーターを作らず安全性が高い。
α-リノレン酸は(特に魚油のEPAやDHA)は長期的に血清コレステロール値を低く保つことが知られている。リノール酸の摂取が多くそれと競合するα-リノレン酸の摂取が少ないと、細胞膜のリン脂質がアラキドン酸で満たされ、それ由来の炎症メディエーター(仲介物質)が過剰に生産される。脂質性炎症メディエーターは、炎症性サイトカインと増幅カスケードをつくり、炎症性を上げる。脂質性炎症メディエーターの前駆体脂肪酸が細胞内外に満たされていると、炎症が持続される。炎症細胞由来の活性酸素・フリーラジカルは、遺伝子を傷害し、脂質性炎症メディエーターと炎症性サイトカインは、転写因子を活性化し、細胞増殖促進的に働く。これらは欧米型ガンの増加を招く原因と考えられる。
また、リノール酸の取り過ぎで細胞のアラキドン酸が増えると、活性の強いアレルギー・炎症のメディエーターが多く作られる。このためリノール酸の摂取を減らすことでアレルギー症状を軽減することができるそうだ。
若者のキレる性格も油脂栄養の偏りが一因になっている可能性が高い。アメリカの若者の犯罪率は我が国より極めて高いがアメリカの食環境は、わが国よりもはるかにα-リノレン酸が少ないということがあげられる。マウスの実験では、不安になりやすい性質や危険な場所の移動率が上がるという結果で行動パターンに変化がみられた。
また、バターなどの摂取量が低すぎると寿命が短くなるという調査結果も出ている。わが国のバター摂取量は、欧米の多い地域に比べると十分の一と低い。植物油やマーガリンばかりでなく、健康のためにもある程度の動物性脂肪は必要だといえそうだ。
解熱剤でも油でもあべこべのことが、どうして起こるのでしょう。????
追補 : 2006年3月27日 魚の脂肪に多く含まれ、日本でもサプリメント(健康補助食品)として販売されているオメガ3脂肪酸が、心臓病やがんなどの予防に効果的だとする明確な根拠はないとの研究結果を英イーストアングリア大などの研究班がまとめ、24日の英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(電子版)に発表しました。 魚の脂肪は一般的に心臓病予防に効果があるとされ、英政府も国民に摂取を勧めています。しかし、研究班は害の有無についても調べる必要があるとしており「狭心症などの人は、念のため、多量の摂取は控えた方がいい」としています。 研究班は、これまでに発表されたオメガ3脂肪酸に関連した89の研究を、精度なども考慮して再分析。健康増進効果があるとの結論を最終的に導き出せなかったほか、精度の高い研究ほど同脂肪酸の摂取と疾病予防との因果関係が薄い結果が示されていたそうです。より長期で精度の高い研究が必要だと指摘しています。