おくすり千一夜 第九十六話 オープン セサミン?
子供の頃読んだアラビアンナイトの「アリババと四十人の泥棒」で、盗賊が宝物を隠している岩屋の前で、唱えた呪文が「開けーゴマ」でした。
食品であるゴマの成分に新たな薬効が見出され、二三の商業紙(2000.3.26)に報道されましたので、注釈を交えてお話しましょう。
東大の石川隆俊先生等がアメリカの癌学会で「ジエチルニトロソアミン(DENA)投与で誘発されたラット肝ガン病巣のイニシエーション期とプロモーション期の両過程を、セサミンが抑制した」という演題で発表されました。
内容を要約しますと:「この研究は肝臓ガンに有効な化学防御剤開発にある。使われた試薬はゴマから抽出した”セサミン“で、セサミンとエピセサミンの等量混合物からなる。この食品はリグニン類に豊み、セサミンの消化管吸収は速やかで、スーパーオキシドラジカル(O2-)やヒドロキシラジカル(HO・)を補足する抗酸化剤として知られている。
F344系ラットを用い、DENAで誘発する前癌病変をマーカーに、肝ガン発ガンモデルでセサミンに高い抑制活性が認められた。実験は3週令のラットに一週間おきに二回DENAを50mg/kg注射し、セサミンを0.01%或いは0.1%含む餌を、全期間の17週間にわたって与えた群と、イニシエーション期の3週間のみ与えた群、或いはプロモーション期の14週間のみ与えた群とを比較した。組織、体重、肝機能に毒性は見られなかった。しかし、DENA誘発肝前ガン病変(GST-P 陽性細胞巣)の数は、コントロール群に比しセサミン投与群で顕著に減少した。抑制は濃度依存的で、プロモーション期よりイニシエーション期のセサミン投与群の方が顕著であった。しかし、最大抑制効果は、全期間セサミン投与群で認められた。得られた知見のうち最善のものは、比較的低濃度のセサミンで肝ガン発生を抑え得るという初の確証を得たことである。」
何故この研究が大きく報道され話題になったのでしょう。筆者が思うに、これには幾つかの要因が考えられます。一つは日常我々が食べているゴマと言う食品であること。二つめは低用量で効果のあること。毒性のないこと。最も重要なのはイニシエーション期とプロモーション期の両方に効果を示したことです。
使用された発癌剤ニトロソアミンはポピュラーな物質です。肉や魚を焼くと焦げた部分に生ずる物質で、一時期発癌性が話題になりました。「たらこ」の色を美しくピンクに保つのに亜硝酸塩が添加されたことがありましたが、蛋白やアミノ酸、いろいろな二級アミン化合物に亜硝酸塩が接触すると、一連のニトロソアミン化合物ができ、それぞれ発がん性を示すと言われております。
DENAによる発癌のイニシエーション期とプロモーション期の両方に効果を示したことが大きな話題になった最大の理由のように筆者には思われます。
その理由は癌に対する薬の作用は極めて多彩で、異なった臓器では一方では制癌作用を示すものが他では発癌性があったり、同一臓器でもイニシエーション期とプロモーション期で相反する作用を示す場合があるからです。
抗酸化剤は一般に体に良いものという通念がありますが、ビタミンCでも亜硝酸塩の存在で、動物の胃に癌が発生しますし、フラボノイド類もニトロソ化で強い発癌性を示すことも有るそうです。抗酸化剤ではありませんが、ワサビの成分が膀胱に発癌性を示した研究もあるそうです。クスリはリスクであることを改めて認識致しましょう。